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戻ってみると

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 私達は夜道を少し早いペースで歩いて帰ります。尤もシンシアとケイトに併せてなのでペースは抑え気味です。流石に2人を置き去りにして夜道を歩いて帰れとは言えませんので。
 ちなみに屋台の後片付けは料理長にお願いして快諾して頂けました。

「待って下さい」
「ナンシーさん、早いです」

「何を言っているの。これは最低限のペースよ」

「あの、私達さっきから歩きじゃなくて走っているんですけれど」

「そう、どうやら鍛え足りないみたいね」

「ヒョえぇ!」

 このペースで音を上げる様では困ります。剣技の向上は見込めませんので、せめて体力は付けてもらわないと。彼女達自身の為にも。



◯▲△ エマ視点です



「あら、早かったわね」

 収穫祭の終わりにはまだ少し早いわ。ナンシーったら遠慮して早目に切り上げたのかしら?

「若女将、一大事です」

 ナンシーが表情を曇らせているわ。何か有ったのね。

「どうしたの? 屋台のジャガイモ料理が売れなかったの?」

 もし本当にそうなら一大事だわ。

「いえ、大好評でした!」

「よかった! 売れたのね?」

「ええ、屋台には長蛇の列が出来ました。これも若女将と料理長のお陰です!」

 破顔一笑、険しかったナンシーの表情が一転して明るくなったわ。本当に売れてよかった。

「で、それが一大事なの?」

 全然深刻な表情になる事が無いと思うけど。それともサプライズのつもりだったの?

「いいえ違います!」

「まぁ、ちょっと待って。そっちも一大事かも知れないけどこっちも中々のサプライズが有るのよ」

「サプライズですか?」

「私、ちょっとばかしヒュンダルン王国に行って来るわ!」

「えっ!」

 ナンシーらしくなく驚いているけど無理も無いわね。

「ヒュンダルンへ? 何故ですか?」

 何時ものナンシーとは思えない位に目を大きく開いて動揺しているわ。予想以上に驚いているわね。

「それは私が頼んだからさ」

 そう言いながら奥から姿を現したのは大女将。私がここからヒュンダルンへわざわざ行く理由を説明してくれる筈よ。

「私は娘の所に身を寄せているだろう。その娘の娘、つまり孫娘だね。その孫娘も年頃になってね、婚約したんだよ」

「それはおめでとうございます」

「ありがとう。それは良いんだけどね、その婚約者が勤めている商会の仕事でヒュンダルン王国に行ったんだけれども、どうも病気になったそうでね」

「身動き取れないらしくてね。それで私に行って治して欲しいって言うのよ」

「しかしいくら大女将の願いとはいえ、ヒュンダルンは」

「それは百も承知さ。その上で頼んでいるんだよ。これはエマにしか頼めないんだよ」

「それにナンシー」

 ここからは大女将には聞かせられない内容なので顔を近付けてのヒソヒソ話になる。

「行き先からしてビュイック家の領地の近くも通るわ。会ったらまた別れるのが辛くなるから会うのはともかくだけど、手紙くらいは出してもいいかなって思っているの」

「ビュイック侯爵領の近くを?」

「ナンシーだって実家に無事を伝えてあげてよ。ハーディング子爵も喜ぶと思うわ」

「その事ですけれども」

「ただいま戻りました」

 ナンシーが何かを言い掛けたその時、ドアが勢い良く開かれた。料理長が帰って来たんだわ。

「おかえりなさい。あら、料理長も早かったわね」

「ああ、早々に売り切れたお陰で片付けにも早く取り掛かれたよ」

 流石に仕事が早いわね。腕の良い職人は片付けも綺麗だって言うしね。

「料理長は武闘会は見なかったんですか?」

「武闘会?」

 ケイトが口を挟んで来るけど、武闘会って何? 村の収穫祭よ。

「決勝だけ見に行こうとしたんだがな、中止だってよ」

「「「中止?」」」

 ナンシー、シンシア、ケイトの3人が声を揃えて聞き返す。そんなに驚く事なのかしら?

「料理長、中止とはどういう事でしょうか?」

「言葉のままだ。俺も見てないんで聞いた話だけどな、領主様の手の者達が大勢会場に乱入して中止を宣言したって話だ。魔物が出たとか何とかって。尤も魔物の気配なんてしないらしいけどな」

 ナンシーが料理長に聞いても料理長だってその場に居た訳じゃないからこれ以上の情報は無理だわ。

「へぇ、領主様の手勢が村の収穫祭に乱入ねぇ。おかしな話も有るのね」

「そういえば若女将、ご新規2名が来ると思うぜ」

「えっ、そうなの? それは助かるわ。どんな方?」

「若い男の2人連れだ。主従関係って感じだったなぁ。何処かの貴族の若様とお付きの者って感じだったぞ」

「貴族の若様?」

 太客到来だわ!

「それじゃみんな、おもてなしの準備よ!」

 私達は料理長の話に有ったご新規様を心待ちにした。
 しかしその夜、ご新規様が訪れることは無かった。
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