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露店出します。宿屋ですけど

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 いよいよと言うか遂に収穫祭の前日になってしまった。
 料理長の後釜なんて見つからないし、相変わらずお客様は少ないわで泣きたい気分だわ。
 でも流石にお客様もゼロじゃないからお料理の提供はしなければならないから、網元には魚を少しだけ届けてもらってる。

「なあ若女将、この大量に在庫が有るジャガイモなんだけどさぁ、いっその事だから収穫祭の露店で料理して出してみたらどうかな?」

 網元からの思いも寄らない提案だった。

「露店で料理を出すの?『一角竜ウチ』が?」

「ああそうだ。村の連中は宿屋の料理なんて食べた事が無いからな。繁盛すると思うけどな」

 網元にまで経営を心配されてしまった。
 でも村で顔の広い網元の言う事なら聞いて損は無いかも。
 ジャガイモの在庫はまだまだ有るけど早く料理しないと芽が出てしまうしね。
 早速料理長に相談だわ。


◯▲△


「露店で出せるジャガイモ料理か?」
 
「そうなの。お客様もゼロじゃないから料理長には『一角竜』に残ってもらって、露店にはナンシーとシンシアかケイトに行ってもらおうと思うの。だからこのメンバーに作れる様な料理って何かないかしら?」

 つまりは簡単で美味しいジャガイモを使った料理を教えて欲しいのよ。

「そうだな、簡単なのは揚げる事だな」

「あっ!それってフライドポテトね!」

 居酒屋の定番メニューじゃない。侯爵家の養女になって以来ご無沙汰だけど。

「ジャガイモを棒状に切って油で揚げて、塩を振ってやれば出来上がりよね?」

「よく知っているな若女将。簡単だが揚げ物って家で作るには手間が掛かるし油は高価だ。だがフライドポテトなら失敗のしようが無いしきっと受けるぞ」

 確かに揚げ物って外食じゃないと見掛けないわ。油は高いし、後の処理とか手間掛かるしね。一般家庭ではコストパフォーマンスが良くないのよ。

「他には何か無い? ずっと油の前にナンシー達を立たせておく訳にはいかないわ」

 高温の油鍋の前に収穫祭が終わるまで立たせておいたら私は聖女じゃなくて鬼畜になっちゃうわ!

「なら蒸せばいいんじゃねぇのか?」

 なるほど、蒸かし芋ね!

「ただ蒸すだけじゃなくて、蒸す前のジャガイモには十字に包丁を入れるんだ。そして蒸し上がったイモの十字の切込みにバターを置けば完成だ」

 蒸したジャガイモにバターだけ?

「随分と簡単ね。それって受けるかしら?」

「味はバターで決まる。バターをケチったら味が落ちる」

 バターも結構の値段なのよね。

「なあ若女将、お客さんが減っているから朝食のパンに使うバターが余っているだろ?」

「判ったわ。それで行きましょ!」

 メニューは決まった。後はメンバーの選定ね。


◯▲△


「メニューはフライドポテトとじゃがバターよ。露店にはナンシーに行ってもらうわ。あとはシンシアとケイトのどっちかに」

 ここまで言って私はハッとなった。折角の収穫祭だもの、シンシアもケイトも2人揃って行って楽しまなくちゃ。

「じゃなくてナンシーと、シンシアとケイトの3人に行ってもらうわよ!」

「それでは若女将はどうされるのですか?」

 ナンシーが神妙な面持ちで聞いて来たけどナンシーなら答えは判っているはずよ。

「若女将は宿屋の顔よ。少ないけれどお客様はいらっしゃるのだから私は残るわよ」

「でしたら私も」

「駄目よ!」

 私を気遣って残ろうとするナンシーにピシャリと言い放ってやったわ。ナンシーならこう言うと思っていたから、言う準備だけは心の中でしていたの。

「仮にも『一角竜』の名前のお店よ。私が行けないのならナンシーにしか責任者を任せられないわ。酔客も居るだろうからシンシアとケイトを守って欲しいのよ」

「ぞういう事でしたら畏まりました」

 言葉だけでは納得させられないと思った私は、ナンシーに聖女の能力を軽く使った。精神を安定させる能力を。ナンシーにも祭りを楽しんで欲しいわ。
 ある程度客足が途絶えたら皆して祭りを楽しんでくればいいのよ。
 皆に楽しんで欲しい。ただそれだけを思っていた。
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