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村の会合

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 若干の残暑は有るものの段々と秋めいてきたある日、私はナンシーを伴って村の会合に出席する事になった。
 簡単に会合と言っても、村からは随分と離れた所にポツンと建っている『一角竜』から会合に参加するにはそれなりの行動力が必要になるのよね。
 しかも実りの秋に相応しい実りの有る話かと言えば、必ずしもそうではないから足取りも重い。
 例年通りで決まっている事を改めて確認するだけ。そこに異を唱えよう物なら村の和を乱す者として村八分になってしまうから気を付けなきゃ。

「ねぇナンシー、会合に参加するのっていつ以来だっけ?」
 
「昨年の夏以来ですね。あの時もこうして若女将と歩きましたね」

「ああ、あの時ね。あの時は暑い中を呼び出されて大変だったわね。炎天下だったし、内容もお粗末で。確か夏祭りについての話だったわね。あれに懲りて会合のお誘いをずっと無視していたのよね」

 女の足で往復すれば1時間以上掛かるし、途中でお茶でも飲んで休憩出来る気の利いたお店も無い。網元が是非って言うから来たけど、これで議題が秋祭りについての話ならもう行かないわ!


◯▲△
 

「秋に行う収穫祭について、皆様からのご意見を頂きたい。『一角竜』の若女将、若い女性として何か無いか?」

「…………」


 突然名指しされても閉口しちゃうわよねぇ。悲しい位にほぼ予想通りだし。
 毎年やっている収穫祭だもん、何か変えようとしたって出る杭は打たれるわよね。村八分は避けなくちゃ。

「毎年恒例の収穫祭ですが、今年も例年通りでよろしいかと思います」

 適当な事を言って凌ぐしかないわ。
 でも実を言うと私は収穫祭にも夏祭りも参加した事が無いし、今後もそのつもりは無い。若女将が宿を空けて祭りを楽しむなんて許されないだろうし。

「はい。『一角竜』の若女将も賛成との事で、全会一致で例年通りと決まりました」

 余りにも予定通りなので誰も喜ばないし、何とも思って無いみたい。決め事は常に全会一致、これぞ村の会合ね。

「それでは寄付金ですが…」

 お祭りの寄付金かぁ。今年の夏祭りの時には結構な金額をしたけど、収穫祭はいくらかしら?

「若女将、これが『一角竜ウチ』に求められた寄付金です」

 あら、夏祭りよりかなり少ないわ!

「なっ、出席する価値が有るだろ?」

 金額の少なさに驚く私に網元が声を掛けて来た。

「随分と少ないけど、どうしてなの? 網元、分かる?」

「簡単だよ若女将。村の会合なんて役職は来た奴に、来ない奴には金銭的負担を押し付ける場だ。だから来なきゃ金は余計に上がるって訳だ。来て良かったろ?」

「でも来たら来たで役職の押し付け合いが有るんでしょ?」

「大丈夫だって若女将。やりたくてウズウズしている奴が居るから。もう何年、いや10年以上は役員の顔触れは変わってないさ」

「へぇ、そうなのね」

「ああ、それが生き甲斐なんだよ。役員を辞める時は死ぬ時だな」

 夏祭りの寄付金はウチの1日の売上の3割に相当する途轍もない金額だったわ。確かにお客様は入っている様に見えるかも知れないけれど、薄利多売なので実はそんなに儲かっていないのに。
 だから助かったわ。村のコミュニティを抜けたら、それはそれで困るしね。
 


◯▲△



 村の会合もお開きとなり後は帰るだけとなった。

「若女将、倅に馬車で送らせるからちょっと待っていてくれ。もうすぐ来る筈なんだ」

 帰りは網元が馬車で送ってくれるって言っているからラッキーだわ。御者はもちろんデビットさんよね?


 何だかんだで30分位待ってる?
 ウ~ン、ちょっと遅いかなデビットさん。これなら歩いて帰った方が早いかも。

「遅いな、倅の奴!」

「まぁいいじゃない。ナンシーを乗せるからきっと馬車の掃除に忙しいのよ!」

 ナンシーがデビットさんに悪印象を抱かない様にフォローしなくちゃ。でないと、「若女将を待たせるなんて」とか言い出し兼ねないからね。

「ナンシーもそう思うでしょ?」

「それを仰るなら、私ではなくて若女将ではないのですか?」

 ナンシーにも困った物ね。いつになったら自分への好意を理解するのか、それとも理解した上で、その振りをしているのか。
 うーん、どうすれば良いのかしら?

「すまん、お待たせ!」

「遅え!」

 予想はしていたけど、網元がいきなりデビットさんを怒鳴りつける。自分じゃなくても誰かが怒鳴られているのはあまり気持ちよくないな。

「まぁまぁ、網元!」

 だから宥めてみた。瞬間的に心が安定する様に聖女の能力の使いながら。まだ日は高いから私から出る淡い光は見えない筈だし。

「若女将が言うなら」

「ゴメンよ若女将、ナッ、ナンシー」

 謝りながら照れないでよね、まったく。しかも私の時には普通の態度なのに。

「こんなに遅れて何か有ったのかよ?」

「いやぁ、それがさぁ」

 ぶっきらぼうに聞く網元に対して、デビットさんは困った様な表情を浮かべる。
 
「さっき変な船が流れ着いてさぁ、それがどうも隣の国から逃げて来たらしいんだよ。あんな小さな船でよく海を渡って来たよな」

「隣の国?」

 何? 隣の国って聞いただけで心臓の鼓動が乱れた。

「ああ、何でも隣のヒュンダルン王国では魔物があっちこっちに出現していて、命からがら逃げて来たそうなんだ!」

「ヒュンダルン王国!」

 思わずナンシーを見れば、ナンシーも私を見つめている。
 ヒュンダルン王国は私達が生まれ育ち、そして逃げ出した国だ。
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