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シンシア、フロントに立つ
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私、シンシアと妹のケイトが温泉宿、『一角竜』のお世話になって早くも2ヶ月が経った。
ゴブリンに切断されて持ち去られた私の腕を探す為の費用、200万サートゥルは全て借金。その借金返済の為のご奉公だけど、居心地は悪くない。
いえ、寧ろ最高!
日の出の少し前に起き、手早く身支度を整えたらお客様の朝食の準備に取り掛かる。
バイキング形式の朝食では私達に出来る事は限られているけれど、量の減った料理を厨房に伝えて鍋の入れ替え、新しいお皿を用意したり、食べ終わったお皿を片付けてテーブルを拭いて次のお客様のご案内等で朝食会場は忙しい。
でも厨房はもっと忙しい!
朝は料理長とナンシーさんの2人で回しているけれど2人共、手の動きが人間業じゃないの!
料理長の鍋の振り方も豪快で凄いけど、ナンシーさんは超人的よ!
どんな食材でもナンシーさんの手に掛かればあっと言う間に、肉でも野菜でも魚でもキレイに切り揃えられてしまう。どんな事をすればあんな包丁捌きが出来るのかしら?
一方で若女将はその頃にはチェックアウトされるお客様に備えて受付に陣取っている。
これは、「若女将に見送られると何となく調子が良い」と仰られるお客様が多数いらっしゃるからだ。
若女将って30歳なのに見た目は10代後半にしか見えないから、若い冒険者のお客様から人気が有る。
そんな若女将はチェックアウト以外にも連泊されてるお客様からお部屋の鍵をお預かりしている。
これはダンジョンや魔の大樹海で鍵を落とされたら大変だからだそうで,鍵の弁償はもちろん、交換費用と部屋を使えない間の料金を支払わなければならないのだ。結構な金額になるみたい。
魔の大樹海と言えば、ゴブリンに持ち去られた私の腕を冒険者の方が持ち帰ってくれてから、どういう理由か魔物が姿を消しているらしい。
「ここにはレベルアップに来たんだ!」
と言っていた初級冒険者のお客様が、私達が『一角竜』で働き出した直後に連泊した。
「今日は出なかった。浅い所じゃ駄目だ、明日は俺達のレベルの遥か上の冒険者じゃなきゃ入れない深みに行こう!」
出発前にはこんな事を言っていたのに、本当に1匹の魔物も居なかったみたい。魔の大樹海なのにどうしたのかしら?
「かなり深く魔の大樹海に入ったのに魔物が全然居ない!」
「これじゃ何をしに来たんだか判らない!」
魔の大樹海でハイキングをしただけになった初級冒険者はレベルアップが出来ないまま所持金が尽きて、こう叫んで帰って行ったわ。
魔物を狩ってお金にするつもりだったのね。
私の鑑定の初仕事は、当てにしていた魔物が出なくてお金が足りなくなった冒険者の身包み剥いでの鑑定だったわ。
「初級冒険者にしてはかなり高い装備ですね」
思わず声に漏れる。この防具なら私も腕を切られる事も無かったんじゃないかしら。
「シンシア、私はナンシーと村の集まりに行って来るから、チェックインお願い!」
「畏まりました、若女将!」
「ホーナーも近くに居るから大丈夫だと思うけど、しつこいお客様には反撃していいからね!」
私達姉妹はナンシーさんに指導を受けて、2ヶ月前より格段に強くなっている。
剣士を目指していた妹のケイトはナンシーさんを崇拝している。尊敬ではない、崇拝だ!
私は魔法を多少は使えるので、魔法を活かす剣技を習っている。
もっともナンシーさんに言わせれば私達は全然で、「間違っても私に習ったなんて言わないで」ときつく言われている。
◯▲△
「すまないが人を探している」
冒険者ではない、もっと身なりの良い若い紳士と部下って感じの2人組がカウンター越しに声を掛けて来たわ。
それにしてもこの若い紳士、こんなに凛々しい方は見た事がないわ!
まるで物語の貴公子みたい!
「いらっしゃいませ。2名様でしょうか?」
声に自然と力が入っちゃうわ。
「いや、客じゃないんだ。ここにスカーレット、又はサラって名前の女性は居ないか?」
「スカーレットかサラという女性ですか?」
なんだ、女を探しているのか。ちょっと残念。
「年齢は18歳になっている筈で、亜麻色の髪だ!」
亜麻色の髪なら1人だけ居るけど。
「亜麻色の髪でしたら、若女将が亜麻色の髪ですけれど」
「それだ!」
「若女将は30歳ですし、名前も違います。若女将の名前はエマです」
「30歳?」
若女将の年齢を聞くとその若い紳士は驚き、その後は明らかに落胆している。
「そうか、すまない。邪魔をして」
「いえ。あの、差し障り無ければその方はどういう方ですか?」
「妹なんだ。それじゃ邪魔したね」
「あの、お泊りは?」
「まだ明るい。先を急ぐから失礼するよ」
そう言い残してさっと出て行ってしまった。
あの紳士、妹さんが見つかれば良いのだけれど。
ゴブリンに切断されて持ち去られた私の腕を探す為の費用、200万サートゥルは全て借金。その借金返済の為のご奉公だけど、居心地は悪くない。
いえ、寧ろ最高!
日の出の少し前に起き、手早く身支度を整えたらお客様の朝食の準備に取り掛かる。
バイキング形式の朝食では私達に出来る事は限られているけれど、量の減った料理を厨房に伝えて鍋の入れ替え、新しいお皿を用意したり、食べ終わったお皿を片付けてテーブルを拭いて次のお客様のご案内等で朝食会場は忙しい。
でも厨房はもっと忙しい!
朝は料理長とナンシーさんの2人で回しているけれど2人共、手の動きが人間業じゃないの!
料理長の鍋の振り方も豪快で凄いけど、ナンシーさんは超人的よ!
どんな食材でもナンシーさんの手に掛かればあっと言う間に、肉でも野菜でも魚でもキレイに切り揃えられてしまう。どんな事をすればあんな包丁捌きが出来るのかしら?
一方で若女将はその頃にはチェックアウトされるお客様に備えて受付に陣取っている。
これは、「若女将に見送られると何となく調子が良い」と仰られるお客様が多数いらっしゃるからだ。
若女将って30歳なのに見た目は10代後半にしか見えないから、若い冒険者のお客様から人気が有る。
そんな若女将はチェックアウト以外にも連泊されてるお客様からお部屋の鍵をお預かりしている。
これはダンジョンや魔の大樹海で鍵を落とされたら大変だからだそうで,鍵の弁償はもちろん、交換費用と部屋を使えない間の料金を支払わなければならないのだ。結構な金額になるみたい。
魔の大樹海と言えば、ゴブリンに持ち去られた私の腕を冒険者の方が持ち帰ってくれてから、どういう理由か魔物が姿を消しているらしい。
「ここにはレベルアップに来たんだ!」
と言っていた初級冒険者のお客様が、私達が『一角竜』で働き出した直後に連泊した。
「今日は出なかった。浅い所じゃ駄目だ、明日は俺達のレベルの遥か上の冒険者じゃなきゃ入れない深みに行こう!」
出発前にはこんな事を言っていたのに、本当に1匹の魔物も居なかったみたい。魔の大樹海なのにどうしたのかしら?
「かなり深く魔の大樹海に入ったのに魔物が全然居ない!」
「これじゃ何をしに来たんだか判らない!」
魔の大樹海でハイキングをしただけになった初級冒険者はレベルアップが出来ないまま所持金が尽きて、こう叫んで帰って行ったわ。
魔物を狩ってお金にするつもりだったのね。
私の鑑定の初仕事は、当てにしていた魔物が出なくてお金が足りなくなった冒険者の身包み剥いでの鑑定だったわ。
「初級冒険者にしてはかなり高い装備ですね」
思わず声に漏れる。この防具なら私も腕を切られる事も無かったんじゃないかしら。
「シンシア、私はナンシーと村の集まりに行って来るから、チェックインお願い!」
「畏まりました、若女将!」
「ホーナーも近くに居るから大丈夫だと思うけど、しつこいお客様には反撃していいからね!」
私達姉妹はナンシーさんに指導を受けて、2ヶ月前より格段に強くなっている。
剣士を目指していた妹のケイトはナンシーさんを崇拝している。尊敬ではない、崇拝だ!
私は魔法を多少は使えるので、魔法を活かす剣技を習っている。
もっともナンシーさんに言わせれば私達は全然で、「間違っても私に習ったなんて言わないで」ときつく言われている。
◯▲△
「すまないが人を探している」
冒険者ではない、もっと身なりの良い若い紳士と部下って感じの2人組がカウンター越しに声を掛けて来たわ。
それにしてもこの若い紳士、こんなに凛々しい方は見た事がないわ!
まるで物語の貴公子みたい!
「いらっしゃいませ。2名様でしょうか?」
声に自然と力が入っちゃうわ。
「いや、客じゃないんだ。ここにスカーレット、又はサラって名前の女性は居ないか?」
「スカーレットかサラという女性ですか?」
なんだ、女を探しているのか。ちょっと残念。
「年齢は18歳になっている筈で、亜麻色の髪だ!」
亜麻色の髪なら1人だけ居るけど。
「亜麻色の髪でしたら、若女将が亜麻色の髪ですけれど」
「それだ!」
「若女将は30歳ですし、名前も違います。若女将の名前はエマです」
「30歳?」
若女将の年齢を聞くとその若い紳士は驚き、その後は明らかに落胆している。
「そうか、すまない。邪魔をして」
「いえ。あの、差し障り無ければその方はどういう方ですか?」
「妹なんだ。それじゃ邪魔したね」
「あの、お泊りは?」
「まだ明るい。先を急ぐから失礼するよ」
そう言い残してさっと出て行ってしまった。
あの紳士、妹さんが見つかれば良いのだけれど。
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