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ローザ、カーマと和解する

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 カーマはお嬢様に悪態ついていた侍女。
 それ以外にも侍女には相応しくない態度を取り続けていた事で侯爵家を解雇される事になりました。
 それを実家に連絡される事が余程嫌でしたのね。自分で蒔いた種なのに。

 正直に言うと私は何も感じませんでした。彼女の処遇については旦那様が断を下されたし、冷たいようですけれども、彼女に対して思う事は特には何もございませんでした。

 明日にはお屋敷を追われる人間です。旦那様のご不許を買った彼女が、吹けば飛ぶ様な男爵の実家でどう扱われるのか想像に難しくはありません。将来を悲観しての自害でしょう。
 でも自害をするのならお屋敷の外でして欲しい。こちらの迷惑も考えてもらいたかったものです。

「ローザ、案内して!」

「お嬢様、どうされるのですか?」

「まだ今なら何とかなるかも。早く!」

 私とてお嬢様のお考えは理解出来るつもりです。きっと聖女の能力を持つ身として彼女を蘇生なされるおつもりなのでしょう。
 彼女を知る者としては、余計な事をしてくれるな、とも思います。それに第一、お嬢様にわざわざ彼女の遺体などお見せする訳には。ここは意見させて頂きます。

「お嬢様、お止め下さい!」

「何を言っているの、人の命がかかっているのよ!」

 その気迫に押されてしまいました。お嬢様のお立場でしたら、悪態をついたこのカーマを放置しても後ろ指さされる筋合いも無い筈ですのに。
 これが聖女様ですのね。ご自身に対して何一つ利益にならないこんな女の為に!
 
「こちらです!」

 気が付けば走り出しておりました。



◯▲△



「カーマ!」

 カーマはお嬢様と私が到着した時には意識は無く、青い顔をしてぐったりしていました。服毒自殺の様ですね。

「お嬢様、いけません」

 使用人一同でお嬢様がカーマに近付く事を阻止しようと必死です。
 皆思う事は一緒で、まだ少女であるお嬢様にカーマの遺体など見せたくないのだと思います。

「どいて!」

 ですがそんな事で止まるお嬢様ではございません。
 お嬢様の気迫の前に身動き取れなくなった使用人達を掻い潜りカーマの遺体へと駆け寄リます。

「まだ生きているわ!」

「いえ、確かに息はもう…」

「でも感じるの、生命の息吹を!」

 執事らにそう言い放つとお嬢様はカーマに手を当てて目を閉じ、神経を集中している様です。
 するとどうでしょう! お嬢様の御身体が光に包まれ、カーマの顔色が見る見る間に良くなって行くではありませんか!

「うっ、ぅぅ」

 確かに死んだ筈のカーマが息を吹き返した瞬間でした! 

「カーマ!」

 お嬢様が優しく呼び掛けるとカーマの意識が戻って来た様です。

「カーマ良かったなぁ!」
「お嬢様がお救い下さったのよ!」

「お嬢様?」

 使用人達の呼び掛けにも、まだ意識は混濁している様子。

「!」

 でも直ぐに我に返った様だ。ハッとなったかと思えば、人目も憚らずに泣き出した。

「どうして死なせてくれなかったのですか? 実家に戻ったって…」

「カーマ……」

 パチーン!
 乾いた音が響きました。お嬢様が優しくお声を掛けた後になんと、カーマの頬に平手打ちしました。
 
「これでおあいこ。私に対する無礼は不問とします」

「お、お嬢様?」

 頬を手で押さえるカーマは目を白黒させて何が起こったのか理解出来ていない様子でした。

「いい、さっきまでのカーマはもう死んだの! 自ら命を断つなんて行動力が有るのなら、それはもっと前向きに使うべきだと思うの!」

「前向き?」

「そう。カーマ、貴女は何の為に生まれて来たの? 仕事を怠けて昼寝して、後輩をイビって私に悪態をついて、クビになり、実家で虐げられて意図しない結婚をさせられる。相手は便宜上正妻には貴族の娘なら誰でも良い商人かしら。それとも人生も終盤を迎えた貴族か金持ちの老人との結婚とは名ばかりの介護。その内に僅かなお金を掴まされて捨てられて寂しい老後を送る。そんな人生を歩むカーマは死んだの!」

「うぅっ、ぅぅ」

「1度死んだつもりでやり直そう。ね、カーマ」

 泣き崩れるカーマにそっと寄り添うお嬢様は幼いながらもまさに聖女様!

「お嬢様、申し訳ありませんでした」

 カーマが嗚咽しながらようやくお嬢様に謝罪した。まぁでもこれで一件落着です!

「お嬢様、お嬢様に終生の忠誠を誓います」
 
 こう言ったのはカーマでした!

「ちょっと、あなたはお暇を出された筈でしょ!」

「良いじゃない。言った者勝ちよ!」

 結局カーマは許され、私と2人で競う様にお嬢様にお仕えしましたが、年齢も年齢だったカーマは暫くして旦那様所縁の騎士に嫁いで行きました。
 お屋敷を去る日にはお嬢様の前で大泣きしていましたっけ。


○▲△


 お嬢様が王宮に上がる際に1人だけ連れて行ける侍女はもちろん私しか居りません。
 その私が王妃の陰謀により王宮からの退去を命じられての今回の断罪。お嬢様の処刑など執行させてなるものですか!

「お嬢様、我がハーディング家は国1番の武門の家と自負しております! 私も幼い頃より一通りの事は叩き込まれております。すぐに参ります、お嬢様!」

 私は単身、ひたすら王都に向かって馬を走らせた。
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