80 / 97
-6-
80
しおりを挟む
「絶対だよ? 叶ちゃんといるのが、あたしの一番の幸せだから」
ド直球な告白に面食らっていると「それじゃあ先にお風呂入っちゃうね」と千夏が顔を隠しながら行ってしまった。恥ずかしがるのなら言わなければいいのに。
だけど千夏の勇気にようやく覚悟を決められた。着信履歴から遥にかけると、呼出音はすぐに消えた。
「遥?」
――か、叶? うそ、信じられない、良かった。
遥の声が裏返っている。その慌てようと声色からは、凶暴さは感じ取れない。
――連絡くれてありがとう。二人にどうしても謝りたかったの。
「それは、うん。そっか」
あれは夢だったのかと疑ってしまいそう。これも遥の作戦のうちなのか、本当に反省しているのかわからない。どちらかというと、後者に傾きつつあるけれど。
――許してくれるのなら何だってするわ。何をされたって受け入れる。土下座でも慰謝料でも何でもいい。私に罪を償わせて。
「その気持ちは嬉しいんだけど、さ」
本当に反省しているの? そう口にしようとして、ためらった。
――反省しているのかってこと?
「まあ、うん」
言い当てられ口籠る。
「遥から連絡が来たって千夏に伝えたんだけど、会いたくないからって断られちゃった。また何かされたら大変だって」
――警戒するのは無理もないわ。だけどお願い。最後のチャンスを与えてほしいの。もう二度とあんなことはしないって誓うから、どうか、どうかお願いします。
弱々しい声色に胸が騒ぎ始める。遥の歪な笑みと豹変した口調が脳裏をよぎった。
騙されるな、どうせ演技よ。そんなことない、きっと反省した。信じたい自分と冷酷な自分のせめぎ合いに、つい口を閉ざした。
――ねえ、叶。
「うん」
――死ねって言われたら、私、死ぬから。
全身に稲妻が走ったようだった。目の前が一瞬だけ揺れて、夏場のような熱が体中に飛び火した。
「何を言ってるの?」
――それだけのことをしたんだもの。それに何だってするって言ったじゃない。
「だとしても……幼なじみに戻りたいって言ってたじゃん。死んだら元も子もないよ」
――このまま生きていても仕方ないもの。二人には迷惑掛けずに、誰も知らない所で死ぬ。私なんか忘れてちーちゃんと幸せにね。
「待って待って! わかった、わかったから」
声のボリュームを下げて口元に手を置いた。
「遥のうちで話を聞くから、そう簡単に死ぬとか言わないで」
――本当に来てくれるの? 約束よ?
「約束する。一応、条件があるんだけど」
落ち着きを取り戻した遥に条件を伝えると快諾してくれた。電話を切った後で、どっと押し寄せた疲れに打ちのめされ、その場で寝転んだ。
スマホの電源を切っておけば良かった。そうすればこんな面倒なことに……いや、遥が死ぬと言わなくても、私はきっと許していただろう。
千夏を罵倒されたことは根に持っている。だけどあの時ほどの熱はとっくの昔に消えた。
できるのなら遥を救ってあげたい。できるのなら以前のような幼なじみに戻りたい。心の奥にそういった優しさが芽生えてしまっていた。
ド直球な告白に面食らっていると「それじゃあ先にお風呂入っちゃうね」と千夏が顔を隠しながら行ってしまった。恥ずかしがるのなら言わなければいいのに。
だけど千夏の勇気にようやく覚悟を決められた。着信履歴から遥にかけると、呼出音はすぐに消えた。
「遥?」
――か、叶? うそ、信じられない、良かった。
遥の声が裏返っている。その慌てようと声色からは、凶暴さは感じ取れない。
――連絡くれてありがとう。二人にどうしても謝りたかったの。
「それは、うん。そっか」
あれは夢だったのかと疑ってしまいそう。これも遥の作戦のうちなのか、本当に反省しているのかわからない。どちらかというと、後者に傾きつつあるけれど。
――許してくれるのなら何だってするわ。何をされたって受け入れる。土下座でも慰謝料でも何でもいい。私に罪を償わせて。
「その気持ちは嬉しいんだけど、さ」
本当に反省しているの? そう口にしようとして、ためらった。
――反省しているのかってこと?
「まあ、うん」
言い当てられ口籠る。
「遥から連絡が来たって千夏に伝えたんだけど、会いたくないからって断られちゃった。また何かされたら大変だって」
――警戒するのは無理もないわ。だけどお願い。最後のチャンスを与えてほしいの。もう二度とあんなことはしないって誓うから、どうか、どうかお願いします。
弱々しい声色に胸が騒ぎ始める。遥の歪な笑みと豹変した口調が脳裏をよぎった。
騙されるな、どうせ演技よ。そんなことない、きっと反省した。信じたい自分と冷酷な自分のせめぎ合いに、つい口を閉ざした。
――ねえ、叶。
「うん」
――死ねって言われたら、私、死ぬから。
全身に稲妻が走ったようだった。目の前が一瞬だけ揺れて、夏場のような熱が体中に飛び火した。
「何を言ってるの?」
――それだけのことをしたんだもの。それに何だってするって言ったじゃない。
「だとしても……幼なじみに戻りたいって言ってたじゃん。死んだら元も子もないよ」
――このまま生きていても仕方ないもの。二人には迷惑掛けずに、誰も知らない所で死ぬ。私なんか忘れてちーちゃんと幸せにね。
「待って待って! わかった、わかったから」
声のボリュームを下げて口元に手を置いた。
「遥のうちで話を聞くから、そう簡単に死ぬとか言わないで」
――本当に来てくれるの? 約束よ?
「約束する。一応、条件があるんだけど」
落ち着きを取り戻した遥に条件を伝えると快諾してくれた。電話を切った後で、どっと押し寄せた疲れに打ちのめされ、その場で寝転んだ。
スマホの電源を切っておけば良かった。そうすればこんな面倒なことに……いや、遥が死ぬと言わなくても、私はきっと許していただろう。
千夏を罵倒されたことは根に持っている。だけどあの時ほどの熱はとっくの昔に消えた。
できるのなら遥を救ってあげたい。できるのなら以前のような幼なじみに戻りたい。心の奥にそういった優しさが芽生えてしまっていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる