ホムンクルス

ふみ

文字の大きさ
上 下
77 / 97
-6-

77

しおりを挟む

「ごめんね。気付かなくて」千夏同様に頭を下げた。
「叶ちゃんのせいじゃないよ。怖くて言いだせなかったあたしが悪いの」
「千夏は勇気を出して言えたじゃない」
「それは……」
 千夏の視線が左右に往復した後で、私の目へと帰ってきた。
「叶ちゃんがいてくれたからだよ。別れる前に、自分の気持ちをちゃんと伝えておきたかったの」
 思い出したというか、遥が消えたことで、話の流れで告白されたことをようやく飲み込めた。
 千夏はまだ私を好きだと言ってくれた。遥ではなく私を愛していると言ってくれた。それを聞いて、私は。
「本当に、これで終わりなの?」
 胸に広がるぬくもりを隠せなかった。こんなことになっても千夏を嫌いになれない。千夏に向けていた想いを断ち切ったと思っていても、心の奥底に仕舞っていただけだった。
 それならもう、やるべきことは決まっている。
「もう一度、やり直せないかな」
「やり直すって……そんな、駄目だよ。あたしのわがままで叶ちゃんを傷付けたのに、虫が良過ぎるよ」
「いいって言ってるの」
 聞きたくない言葉をふさぐよう、千夏に唇を重ねて黙らせた。かつてそばにあった柔らかさと熱さに、胸がじんじんと痛む。この痛みから離れたくない。ずっとそばにいたい。それほどまでの愛を、いつしか抱えてしまっていた。
「千夏は、終わりにしたいの?」
 顔を離せば千夏がまだ物欲しそうな顔をしている。
「したくない、けど」
「それなら」
 千夏を抱き寄せた。
「私のそばで償って。千夏を許せるまでそばにいて。幸せで上書きできるようになるまで一緒にいてよ。そうじゃないと許さないから」
 わがままのように、拗ねるように。呟きながら千夏の背中に手を回した。
 しばらく返事がなくてどうしようかと思った矢先、千夏の手がそっと背中に触れた。今はまだ指の腹で触れているだけ。しかし確かに伝わる胸の鼓動が、小さな愛を囁いている。
 今はこれでいい。いつかちゃんと抱きしめ合えるよう、二人で罪を償っていけばいい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...