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吐き気を催すほどの気味悪さに、拙く聞き返した。
「記憶を失った叶を作り替えるチャンスを与えてくれたの。そこから何もかも始まったのよ」
遥が伸ばしていた手を引っ込め、軽やかに立ち上がった。
「ずっと計画通りに進んでいたわ。叶が一人で外に出るのも、いつかともちゃんに出会ってしまうのも想定内だったわ。それに叶が記憶喪失にならなくても、献身的に世話をして惚れさせるっていうプランも準備していたのよ。だけど」
穏やかな笑みが一変し、鋭利な視線が再び千夏へと向けられた。
「どこかのおばかさんのせいで全部台無しよ。もう少しで成功しそうだったのに。ねえ、ばかちーちゃん?」
拳を握り、必死に怒りを抑え込む。遥が薄っぺらい笑みで千夏の前へと歩み寄った。
「うそつきで極悪非道なちーちゃんから叶を救いだして、私に恋心を抱かせようとしていたのに。全部無駄、水の泡よ。本当に予想外。ねえ、どうして本当のことを話したの?」
膝を曲げ、千夏と目線を合わせた遥。その目は笑ってなどいない。張り付いていた笑みを捨て去り、今にも食って掛かりそうな目つきで千夏をにらんでいる。
「おうち、かなり厳しいのよね? 数日待っているだけで大金が舞い込んだのに、こんなばかなことしちゃって……皆に迷惑掛けちゃうわね。ちーちゃんがばかなせいで」
「ちょっと。いい加減に――」
「ちーちゃんに聞いてるの。叶は黙って」
遥の視線に射すくめられて体が動かない。情けないけれど、遥の瞳に映った何かに、直感的に口を噤んでしまった。
「そんなのわかってる」
千夏が声を震わせながら前へと出た。
「最初は皆のために頑張ってた。でも叶ちゃんを本当に好きになったの。はる姉なんかじゃない。叶ちゃんを好きになったの」
千夏はじっと遥を見続けている。震える足を抑えつけ、奥歯をかみしめ、揺れそうになる視線を縫い留めている。
「ずっとずっと我慢してた。けれど駄目なの。あたし、どうしようもないくらい叶ちゃんが好き。大好きなんだよ」
胸の奥で、火が灯った。心の奥底に閉じ込めた記憶、思い出、何もかもが震えている。
もういらないと捨てたはずの感情が、羽が生えたように飛び上がった。何度も忘れようとして悪夢を見てもなお、心を占めて消えなかった千夏への想い。
一時忘れたと心が晴れ晴れしていた。だけど違っていた。ただ自分をごまかしていただけ。私は千夏を――。
「ふふっ、ふふ、くく」
遥が身を曲げて声を漏らした。どこか痛めたのかと身構えるも、すぐにこちらに向けられた顔は歪に笑っていた。
「あー、おっかしい。もう少し我慢していれば良かったのに、本当にちーちゃんってばかね」
小窓から差す橙色の光の中で遥は笑い続ける。
「記憶を失った叶を作り替えるチャンスを与えてくれたの。そこから何もかも始まったのよ」
遥が伸ばしていた手を引っ込め、軽やかに立ち上がった。
「ずっと計画通りに進んでいたわ。叶が一人で外に出るのも、いつかともちゃんに出会ってしまうのも想定内だったわ。それに叶が記憶喪失にならなくても、献身的に世話をして惚れさせるっていうプランも準備していたのよ。だけど」
穏やかな笑みが一変し、鋭利な視線が再び千夏へと向けられた。
「どこかのおばかさんのせいで全部台無しよ。もう少しで成功しそうだったのに。ねえ、ばかちーちゃん?」
拳を握り、必死に怒りを抑え込む。遥が薄っぺらい笑みで千夏の前へと歩み寄った。
「うそつきで極悪非道なちーちゃんから叶を救いだして、私に恋心を抱かせようとしていたのに。全部無駄、水の泡よ。本当に予想外。ねえ、どうして本当のことを話したの?」
膝を曲げ、千夏と目線を合わせた遥。その目は笑ってなどいない。張り付いていた笑みを捨て去り、今にも食って掛かりそうな目つきで千夏をにらんでいる。
「おうち、かなり厳しいのよね? 数日待っているだけで大金が舞い込んだのに、こんなばかなことしちゃって……皆に迷惑掛けちゃうわね。ちーちゃんがばかなせいで」
「ちょっと。いい加減に――」
「ちーちゃんに聞いてるの。叶は黙って」
遥の視線に射すくめられて体が動かない。情けないけれど、遥の瞳に映った何かに、直感的に口を噤んでしまった。
「そんなのわかってる」
千夏が声を震わせながら前へと出た。
「最初は皆のために頑張ってた。でも叶ちゃんを本当に好きになったの。はる姉なんかじゃない。叶ちゃんを好きになったの」
千夏はじっと遥を見続けている。震える足を抑えつけ、奥歯をかみしめ、揺れそうになる視線を縫い留めている。
「ずっとずっと我慢してた。けれど駄目なの。あたし、どうしようもないくらい叶ちゃんが好き。大好きなんだよ」
胸の奥で、火が灯った。心の奥底に閉じ込めた記憶、思い出、何もかもが震えている。
もういらないと捨てたはずの感情が、羽が生えたように飛び上がった。何度も忘れようとして悪夢を見てもなお、心を占めて消えなかった千夏への想い。
一時忘れたと心が晴れ晴れしていた。だけど違っていた。ただ自分をごまかしていただけ。私は千夏を――。
「ふふっ、ふふ、くく」
遥が身を曲げて声を漏らした。どこか痛めたのかと身構えるも、すぐにこちらに向けられた顔は歪に笑っていた。
「あー、おっかしい。もう少し我慢していれば良かったのに、本当にちーちゃんってばかね」
小窓から差す橙色の光の中で遥は笑い続ける。
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