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第一章
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十話
落ち着きを取り戻した僕は、事情聴取を受けた。
不幸中の幸いとでも言うべきか、カーマイン様と殿下は眠られていたので何も見ていなかった。
あのような光景を10歳の子供が見ていたら、きっとトラウマになっていたはずだ。
見たのが僕だけで、本当に良かった・・・・・・。
数時間に及ぶ調査を終えて、おぼつかない足取りで自室へ向かう。
そこには、殿下のお姿があった。
「大丈夫・・・? 怪我してない・・・・・・?」
「僕はこの通り、大丈夫です」
「よかったぁ・・・・・・」
僕の肩を掴んだ殿下が、ホッと息を着く。
おふたりには結界を張っていたが、万が一、お怪我でもされていないかと心配だった。
いつもと変わりない姿に安堵する。
「殿下・・・お伝えしておきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「うん、どうしたの?」
殿下に腕を離してもらい、姿勢を整える。
今回の調査でわかったことは、侵入者の狙いが僕だったということだけだ。
侵入者は僕を絶対に殺すと口にしていた。
今回の出来事は、始まりに過ぎないだろう。
また暗殺者が侵入するようなことがあれば、皆さんを危険に晒してしまう。
僕の内心を、殿下へ正直に打ち明ける。
「殿下を危険に晒す訳にはいきません。今後僕とは距離を置いた方が良いと思います」
「・・・・・・・・・・」
本当に辛い決断だけど、殿下達の身の安全を確保するためにはこうするしかない。
ギュッと目を瞑って、拳を握る。
「フィンはよく僕たちを子供扱いするけど、君もまだ非力な10歳の子供だよ」
「それは・・・っ・・・・・・」
「フィンの壊れた姿なんて見たくないし、一人で抱え込まないで欲しいな」
殿下が優しく微笑み、僕の頬に手を添える。
その感覚と手から伝わる温もりに、目の前の少年が生きていることを実感出来た。
殿下の手の甲に、自身の手のひらを重ねる。
「僕には皇室に仕える人々を守る義務がある。フィンのことは僕が守るよ」
「その"人々"が、自分に不利益を与える存在でもですか・・・?」
「それは人によるかな。少なくともフィンは、僕にとって大切な人だよ」
「・・・・・・・っ・・・僕は、そのように思っていただけるような人間じゃ・・・・・・・」
「フィンが本当に僕のためを思うなら、そばにいるべきだよ。陛下の為にもね」
今日はゆっくり休んでね、そっと僕を抱きしめた殿下が、お部屋へと戻られる。
僕も自室に戻って、ベッドの上に倒れ込んだ。
彼は僕の扱い方を完全に理解している。
陛下のため、そんな言葉をかけられたら、僕には否定することなんて出来ない。
ベッドのシーツを握り締めて、枕に顔を埋める。
僕を襲った侵入者は、僕の正体を知っていた。
それなのに、僕を宮廷魔法使いでもなくフィンレーでもなく、二属性魔法使いと呼んだ。
あの侵入者は、僕が二属性魔法使いであることが気に入らなかったのか?
冷静に考えると『お前が最初だ』という言葉にも引っ掛かりを覚える。
"僕を殺す"のが目的なのではなく、複数居るターゲットの中から、僕を狙ったかのような言い草だ。
最初があるということは、次がある。
侵入者は姿を一切隠しておらず、躊躇せずに自分の首を切って自害した。
捨て身の覚悟で皇城に侵入したのならば、
ターゲットは僕だけでなく、あの場にいた殿下とカーマイン様も含まれていたのか・・・?
「ぅっ・・・おえっ"・・・・・・っ・・・」
不安から来るストレスで吐き気がする。
あの時の惨状が脳裏に染み付いて離れない。
身体は魔法で綺麗にしたはずなのに、返り血が着いた時の感覚が思い出される。
もしも僕が最初の一撃で殺されていたら、殿下達は侵入者と同じ姿になっていたかもしれない。
全て無事に終わったことなのに、嫌なことばかり考えてしまう。
涙と涎を垂れ流しにしながら、ベッドを出る。
闇の魔力は、闇の中で増幅する。
閉鎖的で薄暗いこの部屋が、余計に僕の精神を弱らせているのかもしれない。
魔法で猫の姿になって、長い廊下を歩く。
窓の外を眺めると、太陽は沈んでいた。
一日が終わるのが、いつもより早く感じる。
窓から飛び降りて、月明かりに照らされた池の麓へ足を運ぶ。
水面を眺めると、血塗られた黒猫の姿があった。
「僕の精神、結構ヤバいな・・・・・・」
「今更か? お前は元からヤバいだろ」
「!?」
独り言に返事が帰ってきた。
全身の毛を逆立て、警戒する。
声の主は僕と目が合うと、口に手を当てて吹き出すように笑った。
「ふはっ! 本当に猫みたいだなっ・・・!」
「え、カーマイン様っ!? 夜分遅くに外を出歩いては危険ですっ!」
そこにいらしたのはカーマイン様だった。
緊張で強ばっていた身体を落ち着かせて、カーマイン様の元へ駆け寄る。
「どうして外にいらっしゃるのですか?」
「誰かさんが眠らせてくれたおかげで、眠気がまったく湧かないんだよ」
「うっ・・・僕のせいですね。ごめんなさい・・・・・・」
「ああ、全部お前のせいだよ」
僕を抱き上げたカーマイン様が、にやりと悪い笑みを浮かべる。
責められているはずなのに、カーマイン様は穏やかな声音をしていた。
落ち着きを取り戻した僕は、事情聴取を受けた。
不幸中の幸いとでも言うべきか、カーマイン様と殿下は眠られていたので何も見ていなかった。
あのような光景を10歳の子供が見ていたら、きっとトラウマになっていたはずだ。
見たのが僕だけで、本当に良かった・・・・・・。
数時間に及ぶ調査を終えて、おぼつかない足取りで自室へ向かう。
そこには、殿下のお姿があった。
「大丈夫・・・? 怪我してない・・・・・・?」
「僕はこの通り、大丈夫です」
「よかったぁ・・・・・・」
僕の肩を掴んだ殿下が、ホッと息を着く。
おふたりには結界を張っていたが、万が一、お怪我でもされていないかと心配だった。
いつもと変わりない姿に安堵する。
「殿下・・・お伝えしておきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「うん、どうしたの?」
殿下に腕を離してもらい、姿勢を整える。
今回の調査でわかったことは、侵入者の狙いが僕だったということだけだ。
侵入者は僕を絶対に殺すと口にしていた。
今回の出来事は、始まりに過ぎないだろう。
また暗殺者が侵入するようなことがあれば、皆さんを危険に晒してしまう。
僕の内心を、殿下へ正直に打ち明ける。
「殿下を危険に晒す訳にはいきません。今後僕とは距離を置いた方が良いと思います」
「・・・・・・・・・・」
本当に辛い決断だけど、殿下達の身の安全を確保するためにはこうするしかない。
ギュッと目を瞑って、拳を握る。
「フィンはよく僕たちを子供扱いするけど、君もまだ非力な10歳の子供だよ」
「それは・・・っ・・・・・・」
「フィンの壊れた姿なんて見たくないし、一人で抱え込まないで欲しいな」
殿下が優しく微笑み、僕の頬に手を添える。
その感覚と手から伝わる温もりに、目の前の少年が生きていることを実感出来た。
殿下の手の甲に、自身の手のひらを重ねる。
「僕には皇室に仕える人々を守る義務がある。フィンのことは僕が守るよ」
「その"人々"が、自分に不利益を与える存在でもですか・・・?」
「それは人によるかな。少なくともフィンは、僕にとって大切な人だよ」
「・・・・・・・っ・・・僕は、そのように思っていただけるような人間じゃ・・・・・・・」
「フィンが本当に僕のためを思うなら、そばにいるべきだよ。陛下の為にもね」
今日はゆっくり休んでね、そっと僕を抱きしめた殿下が、お部屋へと戻られる。
僕も自室に戻って、ベッドの上に倒れ込んだ。
彼は僕の扱い方を完全に理解している。
陛下のため、そんな言葉をかけられたら、僕には否定することなんて出来ない。
ベッドのシーツを握り締めて、枕に顔を埋める。
僕を襲った侵入者は、僕の正体を知っていた。
それなのに、僕を宮廷魔法使いでもなくフィンレーでもなく、二属性魔法使いと呼んだ。
あの侵入者は、僕が二属性魔法使いであることが気に入らなかったのか?
冷静に考えると『お前が最初だ』という言葉にも引っ掛かりを覚える。
"僕を殺す"のが目的なのではなく、複数居るターゲットの中から、僕を狙ったかのような言い草だ。
最初があるということは、次がある。
侵入者は姿を一切隠しておらず、躊躇せずに自分の首を切って自害した。
捨て身の覚悟で皇城に侵入したのならば、
ターゲットは僕だけでなく、あの場にいた殿下とカーマイン様も含まれていたのか・・・?
「ぅっ・・・おえっ"・・・・・・っ・・・」
不安から来るストレスで吐き気がする。
あの時の惨状が脳裏に染み付いて離れない。
身体は魔法で綺麗にしたはずなのに、返り血が着いた時の感覚が思い出される。
もしも僕が最初の一撃で殺されていたら、殿下達は侵入者と同じ姿になっていたかもしれない。
全て無事に終わったことなのに、嫌なことばかり考えてしまう。
涙と涎を垂れ流しにしながら、ベッドを出る。
闇の魔力は、闇の中で増幅する。
閉鎖的で薄暗いこの部屋が、余計に僕の精神を弱らせているのかもしれない。
魔法で猫の姿になって、長い廊下を歩く。
窓の外を眺めると、太陽は沈んでいた。
一日が終わるのが、いつもより早く感じる。
窓から飛び降りて、月明かりに照らされた池の麓へ足を運ぶ。
水面を眺めると、血塗られた黒猫の姿があった。
「僕の精神、結構ヤバいな・・・・・・」
「今更か? お前は元からヤバいだろ」
「!?」
独り言に返事が帰ってきた。
全身の毛を逆立て、警戒する。
声の主は僕と目が合うと、口に手を当てて吹き出すように笑った。
「ふはっ! 本当に猫みたいだなっ・・・!」
「え、カーマイン様っ!? 夜分遅くに外を出歩いては危険ですっ!」
そこにいらしたのはカーマイン様だった。
緊張で強ばっていた身体を落ち着かせて、カーマイン様の元へ駆け寄る。
「どうして外にいらっしゃるのですか?」
「誰かさんが眠らせてくれたおかげで、眠気がまったく湧かないんだよ」
「うっ・・・僕のせいですね。ごめんなさい・・・・・・」
「ああ、全部お前のせいだよ」
僕を抱き上げたカーマイン様が、にやりと悪い笑みを浮かべる。
責められているはずなのに、カーマイン様は穏やかな声音をしていた。
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