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第一章

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四話
 殿下とカーマイン様の髪が乱れていた。
 気がついたカーマイン様が、頭を触りながら不機嫌そうに表情を歪める。

「も、申し訳ございませんでした!」
「・・・・・・・・・」

 僕は深々と頭を下げた。
 おふたりを無事に連れ出すことが僕の役割だったのに、機嫌を損ねてしまった。
 
 カーマイン様は、人に触れられるのを極度に嫌うお方なのに・・・・・・。

「フィン・・・カインは少し感情表現が苦手なだけで、別に怒ってる訳じゃないよ」
「ほ、本当ですか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・ああ、お前には怒ってない」
 
 間が怖いです・・・・・・。
 項垂れる僕の背中を、殿下が撫でてくださる。
 僕は背筋を伸ばして、気合いを入れ直した。

「次こそは必ず阻止します!」
「切り替えが早いのはフィンの長所だよね~」
「ありがとうございます」

 本日二回目、殿下の髪を整える。
 
 従者の方々が時間を掛けて整えた髪が、すぐに乱れてしまうのは心苦しい。

「・・・・・・? いかがなさいましたか?」
 
 クイクイ、服の裾が引かれる感覚がした。
 振り返ると、ご自身の頭を指さす、カーマイン様のお姿があった。

「僕が触ってもよろしいのですか?」
「チッ・・・嫌なら別に良い・・・・・・」

 髪を整えるのは不慣れなご様子で、余計に髪の毛を遊ばせてしまっている。
 
「嫌じゃないです。整えさせていただきますね」
「ん・・・・・・」

 カーマイン様の頭に触れて、ぴょんと跳ねた髪の毛を整えていく。
 殿下の髪質はサラサラしていたけど、カーマイン様の髪は少し傷んでいるみたいだ。

 髪の毛を切っていないみたいで、襟足が肩に掛かりそうなほど伸びてしまっている。
 剣術の訓練の際に、邪魔にならないかな?

「少し失礼しますね」
「何をするつもりだ?」

 ポケットから髪紐を取り出して、襟足を結ぶ。
 後ろ襟の隙間から見えた切り傷の跡を、僕はそっと目を逸らして見なかったことにした。

「出来ました。とても似合っています」
「っ・・・・・・」

 両手をパッとあげて、カーマイン様に微笑む。
 
 カーマイン様のお家の事情を知っている身としては、少し不憫に思ってしまう。
 将来は騎士になるとはいえ、外見に一切関心を示されないなんて・・・・・・。

 とはいえ、僕なんかが人様の家庭の事情に首を突っ込むことなんて出来ない。
 皇城で過ごされる間だけでも、心が休まると良いのですが・・・・・・。

 

 殿下とカーマイン様のお手をお借りして、魔力を流し込む。
 おふたりの手の甲には、魔法陣が刻まれた。

「魔法で姿を認識しずらくしました。人波にはくれぐれもお気をつけください」

 注意事項をお伝えして、頭を下げる。
 危害を加えた者を拘束する魔法を掛けたので、安心して城下をお楽しみいただけるはずだ。

「何帰ろうとしてんだ。お前も行くぞ」
「えっ、僕は送り迎え担当じゃないんですか!?」
「フィンが居ないなら、何のために抜け出してきたのか分からなくなっちゃうよ?」
「えー! 僕のせいで城から抜け出したって意味に聞こえます!」
「あながち間違いでも無いかなぁ」

 殿下のお言葉に、全身の力が抜ける。
 陛下のご子息に魔法まで掛けて、更には無断外出の元凶になってしまうなんて・・・・・・。
 
「陛下に合わせる顔が無くなりました・・・・・・」
「このまま僕と駆け落ちでもする?」
「しません!」

 後戻り出来ない所まで来てしまった。
 
 おふたりの身の安全を確保するためにも、僕が同行した方が良いだろう。
 うん、プラスに考えよう。

「ところで、城を抜け出した理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「「・・・・・・・・・・」」

 普通の子供なら、遊びに行きたいのかな~で済む話だけど、相手は殿下とカーマイン様だ。
 きっと、何か重要な用件があるはず・・・。
 
「フィンが皇城に来て今日で一ヶ月だよね」
「はい、ちょうどひと月になります」
「じゃあさ、フィンは今まで一度も城外に出てないってこと、自覚ある?」
「っ・・・・・・!!」

 殿下の指摘に、呼吸が止まりそうになった。
 一ヶ月・・・それは短い期間じゃない。
 
 使用人達や官僚達の中にも、一ヶ月間ずっと城に居続けた者は居ないだろう。
 
「まったくありませんでした・・・・・・」
「やっぱりね」

 はぁ、ため息を着く音が聞こえる。
 びくりと肩が震えた。

「一ヶ月間も城に籠っているんだよ。フィンは闇の適性があるんだから、外に出ないと」
「・・・・・・・・申し訳ございません・・・・・・」

 自然と顔が俯く。
 初日に教えられたはずなのに・・・重要なことなのに気にかけるのを忘れていた・・・・・・。
 
 この世界には、魔力を持って生まれる者が居る。
 魔力の性質は人それぞれで、ほとんどの人は、
 【水、火、風、土、雷】いずれかの適性がある。

 しかし、その五つに当てはまらない者が、ごく稀に生まれることがあるのだ。
 殿下のような光の適性と、僕のような闇の適性を持つものが・・・・・・。

 魔法の属性は性格や情緒に影響を及ぼすことがあり、闇と光は特段その傾向が強い。

 闇の適性を持つ僕は精神が乱れやすく、他者からの影響を受けやすい。

 閉鎖的な場所や暗闇の中に長く居ると、闇の魔力が増幅して情緒が不安定になるのだ。

 殿下も僕と同じ希少属性だからこそ、このような指摘をされたのだろう。
 闇の性質は、自分自身にも影響を与えやすい。
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