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第一章
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二話
前世で偶然手にした乙女ゲーム・『フィーニスの静寂』は、アクション要素のあるゲームだ。
そのシステムが面白いと話題になり、老若男女を魅了し人気を博した。
しかし、その人気が続いたのも最初だけだった。
実際にゲームをプレイしてみると、攻略対象キャラクター達が様子がおかしい・・・何より怖い。
全員何かしら闇を抱えていて、ストーリーの内容が重すぎると離脱者が続出したのだ。
最初の方は何処にでもあるような話だった。
希少な光魔法を扱えるヒロインが学園に通い、皇子様や貴族の方々と青春を謳歌するような物語。
中盤になるとキャラクターの過去や秘密が明らかになり、雰囲気が変わってくる。
終盤には化け物が大量に発生し、攻略対象キャラクターとヒロインが世界を救うために戦うことになる。
レベル上げを怠るといくら好感度をあげても、バッドエンドしか回収出来ないという罠があった。
そんなゲームの世界に転生した僕は、攻略対象キャラクターのおふたりと過ごしている。
カーマイン様とレインハルト殿下は、四人いる攻略対象キャラクターのうちの二人。
カーマインルートについては詳しく知らないが、レインハルトルートについてはよく知っている。
ゲームの離脱者が増えた原因も、レインハルトの特殊イベントのせいだった。
通称レインハルト事件と呼ばれる特殊イベントは、好感度が一定値に達すると発生する。
本来、ヒロインが夜に自室に戻ると『ベッドに横になる』という、時間を翌朝にスキップし、セーブローディングが挟まれる選択肢しか表示されない。
しかし、好感度を上げたその日だけは、『散歩する』という選択肢が現れた。
ヒロインはゲームの舞台・フィーニス学園の寮を出て、敷地内を散策する。
そこで、剣を片手に返り血を浴びたレインハルトと遭遇してしまうのだ。
月の明かりを背景に、地面に倒れ付す男に片足を乗せて、顔に着いた返り血を手の甲で拭くレインハルトのスチル絵。
加えて『あ~あ、見つかっちゃったか』というテキストは、全プレイヤーを青ざめさせた。
もう少しで攻略というところで、いつもニコニコしている優しい王子様が恐ろしい姿で現れたのだ。
光の灯らない瞳で、貼り付けたような笑みを浮かべるレインハルトの姿は、本当に怖かった。
戦闘メインで遊んでいた僕は、ゲーム進行のためだけにレインハルトルートを選んだ。
彼は一番人気のキャラクターで、攻略サイトにも情報も多く効率が良かった。
殿下は将来闇堕ちをして、人を殺める。
他の攻略対象キャラクターの情報は、サイトで目にしたくらいの知識しかない。
ただ一つ確かなことは、攻略対象キャラクター達が強くならなければ、
この世界は滅びる運命にあるということだ。
「今日はやけに静かだな。体調が悪いのか?」
「いえ、僕はこの通り元気です」
陛下の心配そうなお声に、ハッと我に返る。
恩人である陛下と、そのご子息の殿下。
そして陛下が暮らすこの世界を救うためにも、僕が頑張らないと。
「私はそろそろ執務に戻る。レインハルトとイグニス卿の令息を頼んだ」
「かしこまりました」
陛下の膝から降りて、お見送りする。
人間の姿に戻ると、地に両足を着けた。
僕が転生したフィンレー・クロシアというキャラクターは、ゲームのサポートキャラだ。
フィンレーはヒロインと行動を共にする黒猫のキャラクターで、戦闘時にはHPを回復してくれる。
そしてデバッファーだ。
世界で唯一の二属性魔法使いで、水と闇の魔法を使える貴重な存在だった。
フィンレーは闇魔法で猫の姿をしているが、本来の姿は黒髪黒眼の人間だ。
皇帝の指示で学園に潜入したと中盤で判明する。
それ以外の情報は、ゲームでは無かった。
僕が前世の記憶を思い出したのは一ヶ月前のことで、それ以前の記憶がほとんどない。
生活に関する知識や情報はあるのに、前世の記憶も今世の記憶も曖昧だった。
最初はもちろん困惑した。
目を覚ましたらベッドの上に居て、身体中に包帯を巻かれていたのだから。
僕の傍らには肖像画で見たことのある陛下が立っていて、それと同時に、肖像画とは別に何処かで見たことがあるような気がした。
前世の記憶を思い出したきっかけだった。
陛下は僕に両親が事故で亡くなったことを告げ、魔法の才能があると教えてくださった。
僕の家は男爵家で、残った血族は僕だけらしい。
帝国法上爵位を継げるのは成人からで、10歳の僕には権利がない。
そこで、成人するまで宮廷魔法使いとして過ごさないかと、陛下からご提案があった。
僕はその提案を受け入れて、陛下の保護の元、皇城でお世話になっている。
前世で偶然手にした乙女ゲーム・『フィーニスの静寂』は、アクション要素のあるゲームだ。
そのシステムが面白いと話題になり、老若男女を魅了し人気を博した。
しかし、その人気が続いたのも最初だけだった。
実際にゲームをプレイしてみると、攻略対象キャラクター達が様子がおかしい・・・何より怖い。
全員何かしら闇を抱えていて、ストーリーの内容が重すぎると離脱者が続出したのだ。
最初の方は何処にでもあるような話だった。
希少な光魔法を扱えるヒロインが学園に通い、皇子様や貴族の方々と青春を謳歌するような物語。
中盤になるとキャラクターの過去や秘密が明らかになり、雰囲気が変わってくる。
終盤には化け物が大量に発生し、攻略対象キャラクターとヒロインが世界を救うために戦うことになる。
レベル上げを怠るといくら好感度をあげても、バッドエンドしか回収出来ないという罠があった。
そんなゲームの世界に転生した僕は、攻略対象キャラクターのおふたりと過ごしている。
カーマイン様とレインハルト殿下は、四人いる攻略対象キャラクターのうちの二人。
カーマインルートについては詳しく知らないが、レインハルトルートについてはよく知っている。
ゲームの離脱者が増えた原因も、レインハルトの特殊イベントのせいだった。
通称レインハルト事件と呼ばれる特殊イベントは、好感度が一定値に達すると発生する。
本来、ヒロインが夜に自室に戻ると『ベッドに横になる』という、時間を翌朝にスキップし、セーブローディングが挟まれる選択肢しか表示されない。
しかし、好感度を上げたその日だけは、『散歩する』という選択肢が現れた。
ヒロインはゲームの舞台・フィーニス学園の寮を出て、敷地内を散策する。
そこで、剣を片手に返り血を浴びたレインハルトと遭遇してしまうのだ。
月の明かりを背景に、地面に倒れ付す男に片足を乗せて、顔に着いた返り血を手の甲で拭くレインハルトのスチル絵。
加えて『あ~あ、見つかっちゃったか』というテキストは、全プレイヤーを青ざめさせた。
もう少しで攻略というところで、いつもニコニコしている優しい王子様が恐ろしい姿で現れたのだ。
光の灯らない瞳で、貼り付けたような笑みを浮かべるレインハルトの姿は、本当に怖かった。
戦闘メインで遊んでいた僕は、ゲーム進行のためだけにレインハルトルートを選んだ。
彼は一番人気のキャラクターで、攻略サイトにも情報も多く効率が良かった。
殿下は将来闇堕ちをして、人を殺める。
他の攻略対象キャラクターの情報は、サイトで目にしたくらいの知識しかない。
ただ一つ確かなことは、攻略対象キャラクター達が強くならなければ、
この世界は滅びる運命にあるということだ。
「今日はやけに静かだな。体調が悪いのか?」
「いえ、僕はこの通り元気です」
陛下の心配そうなお声に、ハッと我に返る。
恩人である陛下と、そのご子息の殿下。
そして陛下が暮らすこの世界を救うためにも、僕が頑張らないと。
「私はそろそろ執務に戻る。レインハルトとイグニス卿の令息を頼んだ」
「かしこまりました」
陛下の膝から降りて、お見送りする。
人間の姿に戻ると、地に両足を着けた。
僕が転生したフィンレー・クロシアというキャラクターは、ゲームのサポートキャラだ。
フィンレーはヒロインと行動を共にする黒猫のキャラクターで、戦闘時にはHPを回復してくれる。
そしてデバッファーだ。
世界で唯一の二属性魔法使いで、水と闇の魔法を使える貴重な存在だった。
フィンレーは闇魔法で猫の姿をしているが、本来の姿は黒髪黒眼の人間だ。
皇帝の指示で学園に潜入したと中盤で判明する。
それ以外の情報は、ゲームでは無かった。
僕が前世の記憶を思い出したのは一ヶ月前のことで、それ以前の記憶がほとんどない。
生活に関する知識や情報はあるのに、前世の記憶も今世の記憶も曖昧だった。
最初はもちろん困惑した。
目を覚ましたらベッドの上に居て、身体中に包帯を巻かれていたのだから。
僕の傍らには肖像画で見たことのある陛下が立っていて、それと同時に、肖像画とは別に何処かで見たことがあるような気がした。
前世の記憶を思い出したきっかけだった。
陛下は僕に両親が事故で亡くなったことを告げ、魔法の才能があると教えてくださった。
僕の家は男爵家で、残った血族は僕だけらしい。
帝国法上爵位を継げるのは成人からで、10歳の僕には権利がない。
そこで、成人するまで宮廷魔法使いとして過ごさないかと、陛下からご提案があった。
僕はその提案を受け入れて、陛下の保護の元、皇城でお世話になっている。
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