上 下
2 / 14
第一章

2

しおりを挟む
二話
 前世で偶然手にした乙女ゲーム・『フィーニスの静寂』は、アクション要素のあるゲームだ。
 
 そのシステムが面白いと話題になり、老若男女を魅了し人気を博した。
 しかし、その人気が続いたのも最初だけだった。
 
 実際にゲームをプレイしてみると、攻略対象キャラクター達が様子がおかしい・・・何より怖い。
 
 全員何かしら闇を抱えていて、ストーリーの内容が重すぎると離脱者が続出したのだ。

 最初の方は何処にでもあるような話だった。
 
 希少な光魔法を扱えるヒロインが学園に通い、皇子様や貴族の方々と青春を謳歌するような物語。

 中盤になるとキャラクターの過去や秘密が明らかになり、雰囲気が変わってくる。

 終盤には化け物が大量に発生し、攻略対象キャラクターとヒロインが世界を救うために戦うことになる。

 レベル上げを怠るといくら好感度をあげても、バッドエンドしか回収出来ないという罠があった。

 そんなゲームの世界に転生した僕は、攻略対象キャラクターのおふたりと過ごしている。

 カーマイン様とレインハルト殿下は、四人いる攻略対象キャラクターのうちの二人。

 カーマインルートについては詳しく知らないが、レインハルトルートについてはよく知っている。

 ゲームの離脱者が増えた原因も、レインハルトの特殊イベントのせいだった。

 通称レインハルト事件と呼ばれる特殊イベントは、好感度が一定値に達すると発生する。

 本来、ヒロインが夜に自室に戻ると『ベッドに横になる』という、時間を翌朝にスキップし、セーブローディングが挟まれる選択肢しか表示されない。

 しかし、好感度を上げたその日だけは、『散歩する』という選択肢が現れた。

 ヒロインはゲームの舞台・フィーニス学園の寮を出て、敷地内を散策する。
 
 そこで、剣を片手に返り血を浴びたレインハルトと遭遇してしまうのだ。

 月の明かりを背景に、地面に倒れ付す男に片足を乗せて、顔に着いた返り血を手の甲で拭くレインハルトのスチル絵。
 加えて『あ~あ、見つかっちゃったか』というテキストは、全プレイヤーを青ざめさせた。
 
 もう少しで攻略というところで、いつもニコニコしている優しい王子様が恐ろしい姿で現れたのだ。
 光の灯らない瞳で、貼り付けたような笑みを浮かべるレインハルトの姿は、本当に怖かった。

 戦闘メインで遊んでいた僕は、ゲーム進行のためだけにレインハルトルートを選んだ。
 彼は一番人気のキャラクターで、攻略サイトにも情報も多く効率が良かった。

 殿下は将来闇堕ちをして、人を殺める。
 他の攻略対象キャラクターの情報は、サイトで目にしたくらいの知識しかない。

 ただ一つ確かなことは、攻略対象キャラクター達が強くならなければ、
 この世界は滅びる運命にあるということだ。

「今日はやけに静かだな。体調が悪いのか?」
「いえ、僕はこの通り元気です」

 陛下の心配そうなお声に、ハッと我に返る。
 
 恩人である陛下と、そのご子息の殿下。
 そして陛下が暮らすこの世界を救うためにも、僕が頑張らないと。



「私はそろそろ執務に戻る。レインハルトとイグニス卿の令息を頼んだ」
「かしこまりました」

 陛下の膝から降りて、お見送りする。
 人間の姿に戻ると、地に両足を着けた。
 
 僕が転生したフィンレー・クロシアというキャラクターは、ゲームのサポートキャラだ。

 フィンレーはヒロインと行動を共にする黒猫のキャラクターで、戦闘時にはHPを回復してくれる。
 そしてデバッファーだ。

 世界で唯一の二属性魔法使いで、水と闇の魔法を使える貴重な存在だった。

 フィンレーは闇魔法で猫の姿をしているが、本来の姿は黒髪黒眼の人間だ。

 皇帝の指示で学園に潜入したと中盤で判明する。
 それ以外の情報は、ゲームでは無かった。

 僕が前世の記憶を思い出したのは一ヶ月前のことで、それ以前の記憶がほとんどない。

 生活に関する知識や情報はあるのに、前世の記憶も今世の記憶も曖昧だった。

 最初はもちろん困惑した。

 目を覚ましたらベッドの上に居て、身体中に包帯を巻かれていたのだから。
 僕の傍らには肖像画で見たことのある陛下が立っていて、それと同時に、肖像画とは別に何処かで見たことがあるような気がした。
 前世の記憶を思い出したきっかけだった。

 陛下は僕に両親が事故で亡くなったことを告げ、魔法の才能があると教えてくださった。

 僕の家は男爵家で、残った血族は僕だけらしい。

 帝国法上爵位を継げるのは成人からで、10歳の僕には権利がない。

 そこで、成人するまで宮廷魔法使いとして過ごさないかと、陛下からご提案があった。
 
 僕はその提案を受け入れて、陛下の保護の元、皇城でお世話になっている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

ただの悪役令息の従者です

白鳩 唯斗
BL
BLゲームの推し悪役令息の従者に転生した主人公のお話。 ※たまに少しグロい描写があるかもしれません。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。 前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!! これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。 何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!? 本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。

処理中です...