皇帝の立役者

白鳩 唯斗

文字の大きさ
上 下
3 / 5
おわりとはじまり

3

しおりを挟む
三話
 あまり良い状況とは言えないが、陛下の身の安全を確保するのが先だ。

 身体から神聖力を放ち、本宮の方へ送る。

 皇宮内に神聖力を巡らせ、結界を張ろうとしたその時――数百を超える生命の気配を感じた。

 耳を研ぎ澄ませば、鎧の音と金属同士がぶつかり合う音が聞こえ始める。

「皇族の暗殺だけでは飽き足らず、皇宮を占拠するとは・・・・・・!」

「やっと気がついたのですね」

 腰に携えた鞘から剣を抜いて、アルシアンの首元に突きつける。
 
 アルシアンは皇族だが、騎士団を持っていない。

 これほどの騎士を引き連れてきたということは、アルシアンに協力している貴族が居ることになる。

 いや、アルシアンは大人しい性格で、謀反を起こすような奴ではないはずだ。

 首謀者は別に居て、アルシアンは協力しているだけの可能性も・・・・・・。
 
「落ち着いてください、お兄様」

 命の危機が迫っているというのに、アルシアンは感情の読めない表情を浮かべ、至って冷静だった。

 その時、扉が勢いよく開き――いつの間にか俺の首元に刀身が当てられていた。

「動けば首を切る」

 剣を持つ男の姿に見覚えがあり、目を見開く。

 魔境の近くにある北部のウィンター領。

 魔物の侵略から帝国を守る守護者にして、ローウェル帝国唯一の大公。

 シグリド・ウィンター。

 漆黒の髪と、赤い瞳を持つ怪物と名高い男だ。

「ウィンター大公・・・皇族に刃を向けることの意味を分っているのか?」

「お前こそ、自らが置かれている状況を分かっていないようだな」

 この状況で助けが来たとは思っていなかったが、ウィンター大公も敵なのか。

 彼がここに居るということは、外の奴らは精鋭部隊で知られるウィンター騎士団に違いない。

 皇宮を占拠された上に、ソードマスターである大公が敵に回るのは最悪のシナリオだ。

「戦闘経験の差くらいは理解している」

「賢明な判断だ」

 手の力を抜いて、剣を床に落とす。

 帝国の守護者などと呼ばれている大公も、所詮は権力を欲する貴族と変わらないのか。

「アルシアン、聞きたいことがある」

「なんでもお答えしますよ」

 ウィンター大公に剣を当てられたまま、アルシアンの方を見る。

 既に答えを聞かされたようなものだが、確証を得るために本人の口から聞きたい。

「現存の直系皇族は私とアルシアンだけなのか?」

「そうですよ。お兄様と僕だけです」

『そして、すぐに僕だけになります』

 口には出さなかったが、アルシアンがそう考えていることは分かった。

「そうか・・・・・・それなら仕方がないな・・・・・・」

「「――ッ!!」」

 大公の腕を掴んで、反対の手で剣を奪う。

 俺は両手で剣を握ると、アルシアン――ではなく、自分の腹部に深く差し込んだ。

「お兄様・・・なぜ・・・!」

「っ・・・アル、シアン・・・・・・」

「・・・・・・!!」

 剣を刺さった腹部を抑えながら、アルシアンの肩にもたれ掛かる。

 直系皇族の中で継承権を持っているのは、カシウスとアルシアンだけだ。

 このまま俺が毒で死ねば、龍人を暗殺したアルシアンは教会から罰を受け、皇族の血筋が途絶える。

 ならば、庇ってやるしか無いだろう。

 反対の手をアルシアンの後頭部に添えて、肩越しに見える大公に向けて口を動かす。

『後は任せた』

「ッ・・・なぜ俺に・・・・・・」
 
 全身の力が抜けて、地面に倒れ込む。

 大公は俺を殺すつもりで来たのかと思ったが、彼の表情を見るにそうでは無かったようだ。

 真っ赤な瞳が、俺の言葉を聞いて揺れていた。

「全てあなた達が悪いんですよ」

 ふと、アルシアンのそんなつぶやきが聞こえた。

 その言葉の意味を考えようにも、血が流れすぎたせいで意識が薄れていく。

 俺はそのまま意識を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役王子の幼少期が天使なのですが

しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・

気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!

甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!! ※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

魔王なんですか?とりあえずお外に出たいんですけど!

ミクリ21
BL
気がつけば、知らない部屋にいた。 生活に不便はない知らない部屋で、自称魔王に監禁されています。 魔王が主人公を監禁する理由………それは、魔王の一目惚れが原因だった!

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

優しくしなさいと言われたのでそうしただけです。

だいふくじん
BL
1年間平凡に過ごしていたのに2年目からの学園生活がとても濃くなってしまった。 可もなく不可もなく、だが特技や才能がある訳じゃない。 だからこそ人には優しくいようと接してたら、ついでに流されやすくもなっていた。 これは俺が悪いのか...? 悪いようだからそろそろ刺されるかもしれない。 金持ちのお坊ちゃん達が集まる全寮制の男子校で平凡顔男子がモテ始めるお話。

弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです

BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。

処理中です...