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恋愛実況中継
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==================================================
■登場人物
実況(♂):漕代 実 [こいしろ みのる]実況アナ。独身。メイン。
解説(♂):海瀬 強 [うみせ つよし]落ち着いた解説者。妻あり。
男 (♂):瀬崎 優 [せざき すぐる]。普通の男子。
女 (♀):奥村 香代[おくむら かよ]。普通の女子。
■配役(3:1:0) 所要時間:15~20分
実況(♂)(L46):
解説(♂)(L36):
男 (♂)(L32):
女 (♀)(L33):
※L**:セリフ数
==================================================
女 :「ごめんね。遅れちゃって。」
男 :「あ、いやいや。大丈夫だよ。」
実況:「さぁ、始まりました。本日のメインイベント。
今日でデート2回目という男女の試合が始まりました。
実況は私、漕代。解説は、海瀬さんでお送りいたします。
海瀬さん、よろしくお願いします。」
解説:「よろしくお願いします。」
実況:「早速ですが、この一戦どう見ますか?」
解説:「そうですねー。デートは2回目ということですが、
まだ、まだ。打ち解けてない感じをかもし出してますね。
この一戦は、なにか期待できそうな予感がします。」
女 :「待ったでしょ?」
男 :「全然待ってないよ。気にしなくて大丈夫だって。」
女 :「うそー。だって30分も遅れちゃったし・・・。」
男 :「そうだっけ? そんな感じしなかったけど。
もしかしたら、緊張してるからかも?
なんか、こうやって会うの久々だろ?」
女 :「うん。そうだね。最近部活忙しかったから。」
男 :「部活の方は、調子どう?」
女 :「うん。まぁまぁかな。今度、練習試合あるんだ。」
男 :「お、そうなんだ? がんばって!」
女 :「ありがとう。試合に出れるか分からないんだけどね・・・。」
実況:「早速ですが・・・。
試合開始直後から、挑戦者のペースに持ち込めた感じでしょうか?」
解説:「一見、彼女が遅れてきたことで挑戦者である彼の方が
優位に立ったように見えますが。まったく関係ありません。」
実況:「関係ない?」
解説:「試合は、待ち合わせの約束をした時から始まっているということです。」
実況:「つまり・・・?」
解説:「とにかく、来てくれたことに感謝しましょう。
試合に相手が来ない場合、それは挑戦者である彼の敗北を意味します。」
実況:「さぁ、試合開始から、既に5分が経とうとしておりますが、
両者共に距離を保ったまま、動きません。
互いに相手の出方をうかがっているのでしょうか?」
解説:「そうですね。しかし、どちらが先に動くかで流れが変わってきますよ。
挑戦者の彼としては、ここでイニシアチブを取っておきたい所ですね。」
男 :「・・・じゃあ、そろそろ行こうか?」
女 :「あ、うん。」
実況:「おっと、先に動いたのは挑戦者の方だ。」
解説:「いいですよ。」
実況:「手元の資料によりますと、挑戦者は、現役高校生の瀬崎 優。
全てにおいて平均的なファイターのようです。
一方、受けて立つのは同じく現役女子高校生の奥村 香代。
諸事情により、これ以上の個人プロフィールは公開できません。
ご了承下さい。」
解説:「私の情報によれば、二人は別々の学校に通っているようで、
普段は互いの部活動があるために、もっぱら交流は
携帯電話によるものなんだそうです。」
実況:「なるほど。この初々しさは、そういう理由によるものなんですね。」
解説:「私の学生時代にも携帯電話があれば・・・」
実況:「さあ、そんなことを言っている間にも、
二人の会話は進んでいるようです。」
男 :「でもさ、観にいく映画・・・アレで良かったの?」
女 :「うん。面白そうだって思ってたし。」
男 :「そう? 結構恐いらしいよ?」
女 :「ね。CMとか凄く恐そうだったね。」
男 :「恐いの平気なんだ? 好きなの?」
女 :「うん。私、結構恐いの好きなんだ。」
男 :「へー。以外。」
女 :「以外?」
男 :「んー。恋愛映画とか好きそうな感じがしてたから。」
女 :「もちろん恋愛映画も好きだけどね。」
男 :「へー、そーなんだ。」
実況:「軽快に続いていた掛け合いでしたが・・・?
ここで一拍、二拍、三拍と。
間を取るにしては、長い沈黙のように感じますが・・・?」
解説:「これはいけませんね。TAP状態に陥ってしまったようですね。」
実況:「なんと、早くもTAP状態に?」
解説:「御存知ない方もいるかもしれませんので少し説明しますと、
Talk Air Pocketのことで、頭文字を取り、
ティー・エー・ピーと言うんですが。
これは、見えない”下降気流”によって、
会話の推進力が失われた状態のことなんです。」
実況:「解説の間も、沈黙は続いている訳ですが・・・
では、そのTAP状態に陥った原因は何だと考えられますか?」
解説:「出会いの初期、デート中の不測の事態発生。
長年連れ添った熟年期など、状況によって原因は様々ですが。
今回の場合は、ODT(オーディーティー)でしょうか。」
実況:「ODT?」
解説:「そうです。
彼は、相手の答えに対して”相槌止め”をしてしまったのが失敗ですね。」
実況:「”相槌止め”ですか?」
解説:「話題が用意されていない場合は、現在進行の話題から
何かを生み出すのが理想なんですが、
ここで、相手の発言に納得し、そのまま自分の中へ受入れて
終わらせてしまった。
出来れば、”そうなんだ。”の後に、”いままでどんな映画を見たの?”
くらいの言葉を付け足しておけば、この事態は避けられたと思います。」
実況:「なるほど。それで、ODTというのは?」
解説:「ODTというのは、
”Otoko ha Damatte Thinking"(男は黙ってシンキング)
つまり、男は黙って考えるということです。」
実況:「ほう、そこはツッコむのは止めておきましょう。
で、それがどういった関連性を持っているのでしょうか?」
解説:「男は物事を考える時、黙ってしまう習性があります。
逆に、女は喋りながら考える傾向があるのです。
つまり、彼は会話をしながら考え事を始めてしまったため、
意識がそちらの方へ飛んでしまったのでしょう。」
実況:「たしかに。挑戦者…焦点が合っていないようだ。セコンドが居れば
声を掛けて、意識を呼び戻す事もできるのでしょうが…。
この公式戦ルールでは、セコンドは認められておりません。
早くファイティングポーズを取らないと、
最悪の場合…試合終了の可能性もあります。」
解説:「女性にしてみれば、この沈黙が
”黙っちゃったわ、私の話聞いてるのかしら?”
”何か変なこと言ったかしら?”という誤解を招く種となり得るので、
一刻も早く元気な声を聴かせて欲しいものです。」
実況:「故郷からの便りを思わせる、そんな海瀬さんの解説でしたが。
そうは言っても、これは二人の問題だ。
彼の沈黙に彼女も合わせて沈黙している必要は無い。
デートの良し悪しを全て男の双肩に重責として乗せてしまう世の中に。
私は独り、世界に対して異を唱えたい。もちろん盛り上げたい、
楽しいデートを過ごしたいし、過ごしてもらいたい!
だが、そこまでのエンターテイメント性を私は持っていない!
そんな私でも良いと言う方を大募集中です!」
解説:「・・・? なんの話」
(食い気味で実況)
実況:「少し熱が入りすぎたようだ、今のは忘れていただきたい!
そんなこんなの間にも、沈黙は深みを増しているようだ。
この沈黙が、じわじわと心を締め付けている!
今にも、心のきしむ音が聞こえてきそうです。」
解説:「挑戦者もこの状態に気付いたようですが、
既にがっちり極まってますからね。
早く抜け出さないと心も会話も折れてしまいますよ。」
実況:「沈黙のサブミッションで軋む心を押さえながら、
黙々と歩く二人の前に、ティッシュ配りのおにーさんが現れたぁ。
なにやら・・・彼の方にティッシュを差し出したぞ!
さー、彼はどういう行動に出るのか?」
解説:「・・・取りましたね。」
実況:「おーっと、彼は差し出されたポケットティッシュを受け取ったぁ。」
男 :「なんで、オレにだけ渡すんだろうね?
そんなにティッシュ欲しそうな顔してたのかな? ははっ。」
女 :「ふふ、どんな顔してたのぉ?」
実況:「ここで水を得た魚の如く、ティッシュを得た男子が息を吹き返した!」
解説:「ちょっと例えがおかしい気もしますが。
おにーさんの登場が挑戦者を救いましたね。」
実況:「おにーさん、グッジョブ!」
男 :「普通の顔してたんだけど・・・。ティッシュ欲しそうに見えたのかな?
・・・ん? ”出会いを求めているアナタに”・・・?」
女 :「”出会い系”・・・。」
実況:「おっと、喜びもつかの間。
手に取ったティッシュを見つめる二人の雰囲気がぁ
手に取るようにおかしくなってきたようだが?」
解説:「ティッシュの袋の裏に、出会い系の広告が入っていたようですね。」
実況:「これはなんという不運だぁー!
出会って間もない二人の関係を変な感じで浮き彫りにしたような。
しかし、あまり意識しなければ、なんてことはないただの広告に
書きこまれている4つの文字。”出会い系”!読み上げたら、
5文字じゃないかとツッコミを入れられてしまうであろうが、
そのようなことは華麗にスルーさせてもらいたい。
そして、肝心の二人は、
この”出会い系”をスルーすることが出来るのか?」
男 :「・・・出会い系だって。」
女 :「・・・ね。」
男 :「やったことある?」
女 :「・・・何を?」
男 :「出会い系。」
女 :「えー?! ないよ!!」
実況:「おーっと。挑戦者、とんでもないパンチを繰り出してきたぁ~!?
先ほどのティッシュ攻撃の打ち所が悪かったんでしょうか?」
解説:「予想していない角度から入って来ましたからね。
少し、混乱しているのではないでしょうか?」
男 :「あ、だよね。何言ってんだろ、オレ・・・。」
女 :「え、いや。ううん。
瀬崎君は・・・そういうの、したことあるの?」
男 :「オレ? ないよ!」
女 :「そっか・・・だよね! 私もなんか、変なこと聞いちゃったな。」
実況:「再び会話が動き出しましたが・・・なんとも危うい!
まるで渓谷に架けられたロープの上で綱渡りをしているかのようだ。
踏み外せば、奈落の底へ転落してしまうぞ!」
解説:「リスクを恐れては相手の懐には踏み込めない。ということですね。」
実況:「それはそうかもしれないが、突然のインファイト!
両者拳を交えましたが、再び距離を取ります。」
解説:「肌がピリピリするような緊張感ですね。
この変則的な攻撃から次へどう繋げるのか気になるところですね。」
男 :「・・・てゆーか、オレには関係ないし。もう出会ったから。」
女 :「? 出会った・・・って?」
男 :「別に、もう誰かと出会わなくてもいいかなって。」
実況:「おーっと、これはどーしたことだぁ?
照れくさそうに頭を掻きながら、彼女の顔を見つめる挑戦者~!」
女 :「・・・あ、そう・・・なんだ。」
実況:「再び会話は止まりましたが、先程とは全く意味の違う沈黙だぁ!」
解説:「いいですね。私にも同じような思い出が」
実況:「その話は長そうなので、今は勘弁願いたい!
そして、時間はあっという間に映画終了の時刻です!
たっぷり126分の恐怖映画を堪能したわけですが?」
解説:「いやー、いい映画でしたね。感動しました。」
実況:「恐怖映画の何に感動したのか気になるところではありますが、
それよりも気になる試合の方は、
場所を変え最寄駅で未だ続いております!」
男 :「来週は・・・部活?」
女 :「え?」
男 :「あ、いや。もし、暇だったら来週もどうかなって思って。」
女 :「暇・・・? あ・・・うん・・・どうかな。」
男 :「あ、そうじゃなくて。」
女 :「ん?」
男 :「ごめん、”暇”とかじゃなくて。
・・・また、”会いたい”と思って。」
実況:「おーっと、気持ちを投げましたが、少々弱いか~?」
女 :「・・・・・・。」
男 :「来週、また会いたいんだ! 会える?」
実況:「今度は、力強く投げたぁ!」
解説:「いいですね、思い切って想いを投げかけましたね。」
実況:「さぁ、その言葉が心のロープにゆっくりとのしかかり・・・」
女 :「・・・うん。」
実況:「まっすぐ戻ってきたー!」
解説:「これは、綺麗に返ってきましたね。」
実況:「さぁ、チャンスだぁ!
挑戦者の顔には、もはや勝利を確信したかのような笑みが浮かびあがる!」
女 :「でも、会えないかも。」
男 :「え!? なんで!?」
実況:「うおーっと!? なんだ、なにが起きたんだー?」
解説:「一瞬できた心のスキに、カウンター気味に入りましたよ! これは痛い!」
実況:「心の防御を一瞬、ほんの一瞬おろしてしまった。
その隙間に、綺麗ぇーに入った! これは効いたぁ!」
解説:「挑戦者、今にもヒザが折れそうですよ。」
女 :「来週、部活あるかもしれないんだ。」
男 :「あ・・・部活か、そっか。は、はは。」
女 :「でも、来週の水曜日なら大丈夫だよ。瀬崎君は?」
男 :「オレは大丈夫! 絶対大丈夫。何があっても空けるから!」
女 :「ふふふ。でも、用事があるときはちゃんと言ってね。」
実況:「一瞬、ヒヤっとさせられましたが。」
解説:「KOされてもおかしくない場面でしたね。」
男 :「突然かもしれないけど。
次は友達としてじゃなくて、彼女として会ってくれないかな?」
女 :「え? それって・・・。」
男 :「香代ちゃんのことが、好きなんだ。オレと付き合ってほしい。」
女 :「・・・。」
(沈黙の間)
解説:「長い沈黙が(続いてますね)」
(食い気味に、実況者)
実況:「しぃ~~~~~!」
女 :「はい。よろしくお願いします。」(照れながら笑み)
男 :「! こちらこそ・・・よろしく!」(照れくさそうに)
(そっと手を差し出す彼、手を繋ぐ彼女)
実況:「繋いだ手から感じる互いの想いが
二人のハートを振るわせる!
高鳴る鼓動ぉーがゴングとなって鳴り響くぅ!
ここで試合終了ー!!」
解説:「これは見事に落ちましたね。」
実況:「まさかまさかの展開でしたが、最後はまるで
これがお手本と言わんばかりのフォール!
Fall in Love!」
解説:「素晴らしいですね。純粋で綺麗な形を見せてもらいました。」
実況:「これは語り継がれる一戦となったことでしょう。
では、解説の海瀬さん。試合をご覧になった感想を一言お願いします。」
解説:「今日はね、私も妻に花を買って帰りたいと思います。」
実況:「はい。ありがとうございました。
それでは、又、お愛しましょう。さようなら。」
■登場人物
実況(♂):漕代 実 [こいしろ みのる]実況アナ。独身。メイン。
解説(♂):海瀬 強 [うみせ つよし]落ち着いた解説者。妻あり。
男 (♂):瀬崎 優 [せざき すぐる]。普通の男子。
女 (♀):奥村 香代[おくむら かよ]。普通の女子。
■配役(3:1:0) 所要時間:15~20分
実況(♂)(L46):
解説(♂)(L36):
男 (♂)(L32):
女 (♀)(L33):
※L**:セリフ数
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女 :「ごめんね。遅れちゃって。」
男 :「あ、いやいや。大丈夫だよ。」
実況:「さぁ、始まりました。本日のメインイベント。
今日でデート2回目という男女の試合が始まりました。
実況は私、漕代。解説は、海瀬さんでお送りいたします。
海瀬さん、よろしくお願いします。」
解説:「よろしくお願いします。」
実況:「早速ですが、この一戦どう見ますか?」
解説:「そうですねー。デートは2回目ということですが、
まだ、まだ。打ち解けてない感じをかもし出してますね。
この一戦は、なにか期待できそうな予感がします。」
女 :「待ったでしょ?」
男 :「全然待ってないよ。気にしなくて大丈夫だって。」
女 :「うそー。だって30分も遅れちゃったし・・・。」
男 :「そうだっけ? そんな感じしなかったけど。
もしかしたら、緊張してるからかも?
なんか、こうやって会うの久々だろ?」
女 :「うん。そうだね。最近部活忙しかったから。」
男 :「部活の方は、調子どう?」
女 :「うん。まぁまぁかな。今度、練習試合あるんだ。」
男 :「お、そうなんだ? がんばって!」
女 :「ありがとう。試合に出れるか分からないんだけどね・・・。」
実況:「早速ですが・・・。
試合開始直後から、挑戦者のペースに持ち込めた感じでしょうか?」
解説:「一見、彼女が遅れてきたことで挑戦者である彼の方が
優位に立ったように見えますが。まったく関係ありません。」
実況:「関係ない?」
解説:「試合は、待ち合わせの約束をした時から始まっているということです。」
実況:「つまり・・・?」
解説:「とにかく、来てくれたことに感謝しましょう。
試合に相手が来ない場合、それは挑戦者である彼の敗北を意味します。」
実況:「さぁ、試合開始から、既に5分が経とうとしておりますが、
両者共に距離を保ったまま、動きません。
互いに相手の出方をうかがっているのでしょうか?」
解説:「そうですね。しかし、どちらが先に動くかで流れが変わってきますよ。
挑戦者の彼としては、ここでイニシアチブを取っておきたい所ですね。」
男 :「・・・じゃあ、そろそろ行こうか?」
女 :「あ、うん。」
実況:「おっと、先に動いたのは挑戦者の方だ。」
解説:「いいですよ。」
実況:「手元の資料によりますと、挑戦者は、現役高校生の瀬崎 優。
全てにおいて平均的なファイターのようです。
一方、受けて立つのは同じく現役女子高校生の奥村 香代。
諸事情により、これ以上の個人プロフィールは公開できません。
ご了承下さい。」
解説:「私の情報によれば、二人は別々の学校に通っているようで、
普段は互いの部活動があるために、もっぱら交流は
携帯電話によるものなんだそうです。」
実況:「なるほど。この初々しさは、そういう理由によるものなんですね。」
解説:「私の学生時代にも携帯電話があれば・・・」
実況:「さあ、そんなことを言っている間にも、
二人の会話は進んでいるようです。」
男 :「でもさ、観にいく映画・・・アレで良かったの?」
女 :「うん。面白そうだって思ってたし。」
男 :「そう? 結構恐いらしいよ?」
女 :「ね。CMとか凄く恐そうだったね。」
男 :「恐いの平気なんだ? 好きなの?」
女 :「うん。私、結構恐いの好きなんだ。」
男 :「へー。以外。」
女 :「以外?」
男 :「んー。恋愛映画とか好きそうな感じがしてたから。」
女 :「もちろん恋愛映画も好きだけどね。」
男 :「へー、そーなんだ。」
実況:「軽快に続いていた掛け合いでしたが・・・?
ここで一拍、二拍、三拍と。
間を取るにしては、長い沈黙のように感じますが・・・?」
解説:「これはいけませんね。TAP状態に陥ってしまったようですね。」
実況:「なんと、早くもTAP状態に?」
解説:「御存知ない方もいるかもしれませんので少し説明しますと、
Talk Air Pocketのことで、頭文字を取り、
ティー・エー・ピーと言うんですが。
これは、見えない”下降気流”によって、
会話の推進力が失われた状態のことなんです。」
実況:「解説の間も、沈黙は続いている訳ですが・・・
では、そのTAP状態に陥った原因は何だと考えられますか?」
解説:「出会いの初期、デート中の不測の事態発生。
長年連れ添った熟年期など、状況によって原因は様々ですが。
今回の場合は、ODT(オーディーティー)でしょうか。」
実況:「ODT?」
解説:「そうです。
彼は、相手の答えに対して”相槌止め”をしてしまったのが失敗ですね。」
実況:「”相槌止め”ですか?」
解説:「話題が用意されていない場合は、現在進行の話題から
何かを生み出すのが理想なんですが、
ここで、相手の発言に納得し、そのまま自分の中へ受入れて
終わらせてしまった。
出来れば、”そうなんだ。”の後に、”いままでどんな映画を見たの?”
くらいの言葉を付け足しておけば、この事態は避けられたと思います。」
実況:「なるほど。それで、ODTというのは?」
解説:「ODTというのは、
”Otoko ha Damatte Thinking"(男は黙ってシンキング)
つまり、男は黙って考えるということです。」
実況:「ほう、そこはツッコむのは止めておきましょう。
で、それがどういった関連性を持っているのでしょうか?」
解説:「男は物事を考える時、黙ってしまう習性があります。
逆に、女は喋りながら考える傾向があるのです。
つまり、彼は会話をしながら考え事を始めてしまったため、
意識がそちらの方へ飛んでしまったのでしょう。」
実況:「たしかに。挑戦者…焦点が合っていないようだ。セコンドが居れば
声を掛けて、意識を呼び戻す事もできるのでしょうが…。
この公式戦ルールでは、セコンドは認められておりません。
早くファイティングポーズを取らないと、
最悪の場合…試合終了の可能性もあります。」
解説:「女性にしてみれば、この沈黙が
”黙っちゃったわ、私の話聞いてるのかしら?”
”何か変なこと言ったかしら?”という誤解を招く種となり得るので、
一刻も早く元気な声を聴かせて欲しいものです。」
実況:「故郷からの便りを思わせる、そんな海瀬さんの解説でしたが。
そうは言っても、これは二人の問題だ。
彼の沈黙に彼女も合わせて沈黙している必要は無い。
デートの良し悪しを全て男の双肩に重責として乗せてしまう世の中に。
私は独り、世界に対して異を唱えたい。もちろん盛り上げたい、
楽しいデートを過ごしたいし、過ごしてもらいたい!
だが、そこまでのエンターテイメント性を私は持っていない!
そんな私でも良いと言う方を大募集中です!」
解説:「・・・? なんの話」
(食い気味で実況)
実況:「少し熱が入りすぎたようだ、今のは忘れていただきたい!
そんなこんなの間にも、沈黙は深みを増しているようだ。
この沈黙が、じわじわと心を締め付けている!
今にも、心のきしむ音が聞こえてきそうです。」
解説:「挑戦者もこの状態に気付いたようですが、
既にがっちり極まってますからね。
早く抜け出さないと心も会話も折れてしまいますよ。」
実況:「沈黙のサブミッションで軋む心を押さえながら、
黙々と歩く二人の前に、ティッシュ配りのおにーさんが現れたぁ。
なにやら・・・彼の方にティッシュを差し出したぞ!
さー、彼はどういう行動に出るのか?」
解説:「・・・取りましたね。」
実況:「おーっと、彼は差し出されたポケットティッシュを受け取ったぁ。」
男 :「なんで、オレにだけ渡すんだろうね?
そんなにティッシュ欲しそうな顔してたのかな? ははっ。」
女 :「ふふ、どんな顔してたのぉ?」
実況:「ここで水を得た魚の如く、ティッシュを得た男子が息を吹き返した!」
解説:「ちょっと例えがおかしい気もしますが。
おにーさんの登場が挑戦者を救いましたね。」
実況:「おにーさん、グッジョブ!」
男 :「普通の顔してたんだけど・・・。ティッシュ欲しそうに見えたのかな?
・・・ん? ”出会いを求めているアナタに”・・・?」
女 :「”出会い系”・・・。」
実況:「おっと、喜びもつかの間。
手に取ったティッシュを見つめる二人の雰囲気がぁ
手に取るようにおかしくなってきたようだが?」
解説:「ティッシュの袋の裏に、出会い系の広告が入っていたようですね。」
実況:「これはなんという不運だぁー!
出会って間もない二人の関係を変な感じで浮き彫りにしたような。
しかし、あまり意識しなければ、なんてことはないただの広告に
書きこまれている4つの文字。”出会い系”!読み上げたら、
5文字じゃないかとツッコミを入れられてしまうであろうが、
そのようなことは華麗にスルーさせてもらいたい。
そして、肝心の二人は、
この”出会い系”をスルーすることが出来るのか?」
男 :「・・・出会い系だって。」
女 :「・・・ね。」
男 :「やったことある?」
女 :「・・・何を?」
男 :「出会い系。」
女 :「えー?! ないよ!!」
実況:「おーっと。挑戦者、とんでもないパンチを繰り出してきたぁ~!?
先ほどのティッシュ攻撃の打ち所が悪かったんでしょうか?」
解説:「予想していない角度から入って来ましたからね。
少し、混乱しているのではないでしょうか?」
男 :「あ、だよね。何言ってんだろ、オレ・・・。」
女 :「え、いや。ううん。
瀬崎君は・・・そういうの、したことあるの?」
男 :「オレ? ないよ!」
女 :「そっか・・・だよね! 私もなんか、変なこと聞いちゃったな。」
実況:「再び会話が動き出しましたが・・・なんとも危うい!
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踏み外せば、奈落の底へ転落してしまうぞ!」
解説:「リスクを恐れては相手の懐には踏み込めない。ということですね。」
実況:「それはそうかもしれないが、突然のインファイト!
両者拳を交えましたが、再び距離を取ります。」
解説:「肌がピリピリするような緊張感ですね。
この変則的な攻撃から次へどう繋げるのか気になるところですね。」
男 :「・・・てゆーか、オレには関係ないし。もう出会ったから。」
女 :「? 出会った・・・って?」
男 :「別に、もう誰かと出会わなくてもいいかなって。」
実況:「おーっと、これはどーしたことだぁ?
照れくさそうに頭を掻きながら、彼女の顔を見つめる挑戦者~!」
女 :「・・・あ、そう・・・なんだ。」
実況:「再び会話は止まりましたが、先程とは全く意味の違う沈黙だぁ!」
解説:「いいですね。私にも同じような思い出が」
実況:「その話は長そうなので、今は勘弁願いたい!
そして、時間はあっという間に映画終了の時刻です!
たっぷり126分の恐怖映画を堪能したわけですが?」
解説:「いやー、いい映画でしたね。感動しました。」
実況:「恐怖映画の何に感動したのか気になるところではありますが、
それよりも気になる試合の方は、
場所を変え最寄駅で未だ続いております!」
男 :「来週は・・・部活?」
女 :「え?」
男 :「あ、いや。もし、暇だったら来週もどうかなって思って。」
女 :「暇・・・? あ・・・うん・・・どうかな。」
男 :「あ、そうじゃなくて。」
女 :「ん?」
男 :「ごめん、”暇”とかじゃなくて。
・・・また、”会いたい”と思って。」
実況:「おーっと、気持ちを投げましたが、少々弱いか~?」
女 :「・・・・・・。」
男 :「来週、また会いたいんだ! 会える?」
実況:「今度は、力強く投げたぁ!」
解説:「いいですね、思い切って想いを投げかけましたね。」
実況:「さぁ、その言葉が心のロープにゆっくりとのしかかり・・・」
女 :「・・・うん。」
実況:「まっすぐ戻ってきたー!」
解説:「これは、綺麗に返ってきましたね。」
実況:「さぁ、チャンスだぁ!
挑戦者の顔には、もはや勝利を確信したかのような笑みが浮かびあがる!」
女 :「でも、会えないかも。」
男 :「え!? なんで!?」
実況:「うおーっと!? なんだ、なにが起きたんだー?」
解説:「一瞬できた心のスキに、カウンター気味に入りましたよ! これは痛い!」
実況:「心の防御を一瞬、ほんの一瞬おろしてしまった。
その隙間に、綺麗ぇーに入った! これは効いたぁ!」
解説:「挑戦者、今にもヒザが折れそうですよ。」
女 :「来週、部活あるかもしれないんだ。」
男 :「あ・・・部活か、そっか。は、はは。」
女 :「でも、来週の水曜日なら大丈夫だよ。瀬崎君は?」
男 :「オレは大丈夫! 絶対大丈夫。何があっても空けるから!」
女 :「ふふふ。でも、用事があるときはちゃんと言ってね。」
実況:「一瞬、ヒヤっとさせられましたが。」
解説:「KOされてもおかしくない場面でしたね。」
男 :「突然かもしれないけど。
次は友達としてじゃなくて、彼女として会ってくれないかな?」
女 :「え? それって・・・。」
男 :「香代ちゃんのことが、好きなんだ。オレと付き合ってほしい。」
女 :「・・・。」
(沈黙の間)
解説:「長い沈黙が(続いてますね)」
(食い気味に、実況者)
実況:「しぃ~~~~~!」
女 :「はい。よろしくお願いします。」(照れながら笑み)
男 :「! こちらこそ・・・よろしく!」(照れくさそうに)
(そっと手を差し出す彼、手を繋ぐ彼女)
実況:「繋いだ手から感じる互いの想いが
二人のハートを振るわせる!
高鳴る鼓動ぉーがゴングとなって鳴り響くぅ!
ここで試合終了ー!!」
解説:「これは見事に落ちましたね。」
実況:「まさかまさかの展開でしたが、最後はまるで
これがお手本と言わんばかりのフォール!
Fall in Love!」
解説:「素晴らしいですね。純粋で綺麗な形を見せてもらいました。」
実況:「これは語り継がれる一戦となったことでしょう。
では、解説の海瀬さん。試合をご覧になった感想を一言お願いします。」
解説:「今日はね、私も妻に花を買って帰りたいと思います。」
実況:「はい。ありがとうございました。
それでは、又、お愛しましょう。さようなら。」
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あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
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はじめまして、素敵な台本ありがとうございます。
大変楽しく拝見させていただきました!!
早速なのですが、こちらの台本を配信アプリ上で使用させていただく事は可能でしょうか?
また、こちらの配信アプリでは投げ銭機能が存在しています。
こちらの対応が難しいようでしたらTwitterDMでも対応できますので予めこちらから送りますリプライのアカウント宛にDMをいただけますと幸いです。
素敵な作品ですので是非使用させていただきたく、お返事等頂けましたら嬉しいです。宜しくお願いします。
感想ありがとうございます!
台本使用についてはDMにてお返事させていただきますね。