上 下
69 / 72
ポーション監修編

第131話 ポーションの爆売れと提案

しおりを挟む
お待たせいたしました…!

あとがきにてお知らせがあります。
---------------------------------------


 ストロベリーパフェの調整が終わった翌日、『グルメの家』の定休日のこと。

 俺はツキネを肩に乗せ、『薬屋ディーニャ』に向かっていた。

 というのもつい先日、『思った以上にポーションが売れている』とディーニャから手紙で伝えられたのだ。

 そのため、今度の定休日に追加の味変粉を持っていくことを通達し、こうして向かっているわけである。

「――あれ? 臨休になってるな」
「キュウ?」

 ディーニャの店に着いた俺は、入り口に掛けられた札を見る。

 粉を渡したらすぐに立ち去るつもりだったのだが、わざわざ店を閉めてくれのだろうか?

 申し訳なく思いつつドアをノックすると、バタバタと足音が聞こえてディーニャが顔を出した。

「はいはーい! ……っ! メグルさん! よく来てくれたッス!」

 ぱぁっと笑顔を咲かせた彼女は、俺を店に招き入れる。

「臨休の札が掛かってたけど、もしかしてわざわざ閉めてくれたのか? 悪いな」
「いえ、それもあるんスけど、どのみち閉めてたかもというか……」

 ディーニャはそう言いながら、店内の商品棚に目を向ける。

 知らない薬はいくつか置かれているが、ポーションの瓶は1本も見当たらない。

 棚の中央部分には、〝ポーション品切れ中〟と書かれた張り紙があった。

「もう全部売れたのか……?」
「はいッス。ちょうど昨日、最後の粉を使い切ったッス。最初の数日はぼちぼちって感じだったんスけど、手紙を送った辺りから一気にお客さんが増えはじめて……昨日は最終的に200本近くのポーションが売れたッスね」
「200本……とんでもないな」

 最初に渡したポーションの粉は合計で約800本分。

 一日200本が売れるとなると、4日でなくなってしまう計算だ。

「お客さんを捌くのも大変で……今度接客の子をバイトで雇う予定ッス」
「そうか……大変だな」
「嬉しい悲鳴ってやつッスね」

 ディーニャの気持ちはよくわかる。

 俺も『グルメの家』で同じような道を通ったからだ。

 さすがは美食の都なだけあって、王都民達の食に対するセンサーはすさまじい。

 大々的な告知がなくとも、美味しい物の情報は急速に広がっていく。

 ディーニャの話を聞いた俺は、リュックから味変粉を取り出して彼女に渡す。

「助かるッス! どれくらいの量があるんスか?」
「大体前の3倍かな。合計で約2400本分。ただ、聞いた感じじゃそれでも長くは持たなさそうだから、すぐに追加分を用意しとくよ」
「ありがとうございます!!」
「いいよいいよ。作るのはそんな手間じゃないし。今日明日中には用意できると思うから、今度の営業終わりにでも取りに来て」
「わかったッス! ひとまず、今回分の粉代を渡しますね」
「了解。あとは特に問題なさそうか?」
「あ、それなんスけど……」

 代金の用意をしていたディーニャは、俺の質問に手を止める。

「どうかしたのか?」
「その、美味しいポーションの噂を聞きつけて、冒険者以外のお客さんも結構来てるんスよね。多少なら問題ないんスけど、その割合が増えているというか――」

 ディーニャはそう言って、彼女の懸念点を語る。

 本来、ポーションというものは、戦いに身を置く冒険者達が使うもの。

 もちろん、一般の人間も使うことには使うが、あくまでも救急用であり、常用することはあまりない。

 だが、俺が監修したポーションについては、明らかに味目的で買う一般のお客さんが多いと言う。

「なるほど……ポーションを買いたい冒険者の人達に届かなくなるわけか」
「はいッス。有名店が監修したポーションでは割とあるあるなんスけど、ちょっとその割合が多いというか……」
「ふむふむ」

 当然、同じポーションなら美味しいに越したことはないが、美味しすぎるのも考え物ということだろう。

 ポーションがその辺のドリンクより美味しいとなると、純粋な飲み物として買う人達が出てきてしまう。

「特に、ウチのポーションは効能の高さも特徴なんで、ただの飲み物として買われるのは勿体ないんスよね……値段も高めですし」
「ああ、たしかになぁ」

 俺はディーニャの言葉に頷く。

 元々、彼女の作るポーションは抜群の効能を誇るものだった。

 そこに美味しさが加われば……というのが監修を頼まれた理由であり、味だけを目的に買うのは勿体ない。

「そうだな……たとえば、冒険者の人達に優先で買ってもらえるよう、専用の枠を設けるのはどうだ?」
「そうッスね。それは自分も考えてたッス。他にもたとえば――」

 ディーニャは俺の言葉に頷きながら言う。

 俺が提案した専用枠の設定の他、1人あたりの購入個数制限等、基本的な対策は考えていたようだ。

 相槌を打ちながら聞いていると、ディーニャは「それで……」と俺の目を見る。

「ここからが本題なんスけど……メグルさんの店でもポーション味のドリンクを出したらどうかと思うんス」
「俺の店で?」
「はいッス。粉で味を変えるやり方ってことは、ただの水でも同じ味にできるってことッスよね?」
「可能だな……なるほど、そういうことか」

 俺はディーニャの意図を理解する。

「純粋に味だけが目的なら、俺の店で飲めばいいって話だな」
「そういうことッス!」

 ディーニャは首を縦に振る。

「もちろん、メグルさん側の都合もあると思うので、無理にとは言いませんけど……」
「いや、そういうことなら協力するよ」

 これからさらにポーションの人気が増せば、より冒険者達――それを必要とする人達のもとに商品が届きにくくなる。

 そういう状況は俺も望まないし、同じ味の飲み物を出すこと自体は簡単なので、提案を受け入れることにした。

「近いうちに新メニューを追加する予定だったから、それと併せてメニューに追加しようかな」
「ありがとうございます!!」
「全然いいよ。たぶん今週中には準備できると思うから、でき次第手紙を送るよ」
「了解ッス! ウチでも告知しときますね」
「頼んだ。他に決めておくことは――」

 それから俺達は、告知のタイミングやドリンクの価格等について相談する。

 特に難しい内容でもないので、相談は10分ほどで終わった。

「――パフェと新ドリンクの追加か。また賑やかになりそうだな」
「キュウ♪」

 ディーニャの見送りを受けて店を出た俺は、口角を上げながらツキネを撫でる。

「ドリンクもどうせなら粉で作ったやつより美味しくしたいし、帰ったら調整してみるか」
「キュキュ!」

 そうして、なるべく早く調整を進めようと、早足で帰路に就くのだった。



-----------------------------
【お知らせ】
『【味覚創造】は万能です』の第3巻が、6月下旬頃に発売予定です。
魚介料理の話と料理決闘の話が収録されています。
細かい加筆も多く、ボリュームもアップしておりますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出中の女子高生を保護した俺

土方 煉
大衆娯楽
正義感から家出少女を保護したものの、次第に二人は惹かれ合う運命に・・・

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

女帝と皇配と5人の側室、フラれて幸せを掴んでみせます!

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ロザンナ・ルーズベルト・プリンツ公爵令嬢 17歳 プリンシル・ユリア王太子19歳 ダミアン・ユリア第2王子、プリンシルの弟17歳 公爵の娘として蝶よ花よと育てられたロザンナ・ズールベルト・プリンツ17歳 皇帝が防御されロザンナが15代帝国皇帝に即位することに皇帝陛下の誕生である。 結婚の約束をしていた相手は3ヶ月前隣国の王女を妃として娶って幸せに暮らしています。 これから私は皇配と側室を迎える準備で忙しい毎日を送ることでしょう。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。