夕日(夕日凪)

夕日(夕日凪) (著者名:夕日(夕日凪))

ちまちまと色々投稿しています。書籍もちょこちょこ。一般文芸系は夕日凪、それ以外は夕日という名義です。

本日の短編(19)

本日の短編。
ベルーティカ王女のその後、その2。


『犬と職人』

 パン屋での仕事が終わり。
 私はセラのお店から少し離れた家の屋根の上で、働く彼をこっそりと見つめていた。
 セラに沢山の迷惑をかけてしまったのでもうべったりしない、を私は心掛けているのだ。
 私が近づかない間にセラに好きな人ができて……なんてことも考えはしてしまうんだけど。
 だからって四六時中べたべたして、好きになってもらえるわけじゃないのは前回のことでわかってるし。
 もう間違いは犯したくない。これ以上、嫌われたくない。
 そんなことを考えながらため息をついた時。

「ベル、その上にいるんだろ?」

 下の方から、セラの声がした。
 嘘、なんで!? なんでバレたの!?
 セラには、庶民と同じように私に接するようにお願いしている。
 だから今は気軽な口調で『ベル』と呼んでくれるのだ。

「どうしてバレたの……」
「いや、君の執事がこの建物の上を心配そうに眺めてたから」

 セラにそう言われて下を見ると、私の執事……白猫の獣人のアレスが申し訳なさそうに頭を下げていた。
 むむむ……アレスったら!

「別に会いに来るなとは言ってないんだから、降りてこいよ」

 そう言ってセラはにかっと快活に笑う。
 うう……会ったり話したりすると執着が増すのよ……人の気も知らないで!
 私は仕方なく建物の屋根からひらりと飛び降りた。

「ちょっ……ベル!?」

 セラ、なんで、なんでこっちに走って来るの!?
 もしかして受け止めようとしてる!?
 獣人だったらこれくらい華麗に着地出来るのに!!

「ひゃっ……!!」

 私は色気のない声を上げて、セラの……上に乗っかっていた。

「ちょっと、セラ!! 受け止めなくていいの! 私は獣人だから、あの二倍くらいの高さでも死なないから!」
「……あ……そうか……」

 照れ笑いをするセラを見ているとぎゅうっと胸の奥が締め付けられて。
 抱きつきたい衝動に駆られたけれど、私は必死に我慢した。
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登録日 2018.11.19 07:52

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