白雲八鈴

白雲八鈴

異世界物で恋愛ファンタジーを中心にコツコツ投稿中。 少しでも楽しんで読んでいただければ、嬉しく思います。 書籍化「私の秘密を婚約者に見られたときの対処法を誰か教えてください」好評発売中です。

星神ステルラに願う2〜この死から逃れるすべを〜

 先程まで感じていたユリウスを引っ張る感触がないことに、恐る恐る振り返れば……ユリウスの右手だけが存在していた。
 肘から向こうはただの暗闇が広がっており、ユリウスの姿が見えなかった。
 俺は思わず、肘から先だけになってしまったユリウスの手を放す。辺りを見渡してもユリウスの姿が何処にもない。先程まで声がしていたはずだ。

「おやぁ?手は離さないって言っていたよなぁ?」

 すぐ背後から聞こえてきた声に、振り返るもバランスを崩し、地面に倒れ込む。

『にぃちゃ……ん。ぼくをおいて……いって』

 ユリウスの声がして、ハッと顔を上げるとそこには皮膚が闇と同化したように真黒な存在が目の前にいた。しかし、その表層には血管のような青い紋様が闇に浮かび、全体の形を顕にしている。

 人の形をしてはいるが、目は夜目が利くようにか光をまとい、頭部には漆黒の髪の隙間からねじ曲がった角が二本、天に向かって突き出ていた。

 悪魔と呼ばれる存在だ。ここ数年、人という種族を根絶やしにする勢いで、各地で暴れ回っている突如として現れた者たちだ。

 その悪魔からユリウスの声が聞こてきた気がする。どういうことだ?もしかして村を出た時から?森に入った時からか?
 いや、森に入った頃はユリウスがバランスを崩し、腕を引っ張られていたはずだ。

 俺は浅い呼吸の中で必死にここから逃げて、ユリウスの元に行くことを考えていたが、俺の脳裏には目の前の死を具現化した存在しか映っていない。そう、死しかないのだ。

「神に祈っても何も変わらねぇ。何も与えてはくれねぇ。そんなモノに縋った愚かな自分を恨んで死ねばいい。アハハハハ」

 違う!神々は我々の祈りに応えてくださる!
 俺は……いや、俺たちはお前たち悪魔に負けやしない。例え俺がここで死に絶えたとしても。

 俺は腰に差していたナタを抜き取り地面から爆ぜるように振るった。

「火の神《プロクス神》の息吹よ。全てを燃やし尽くす轟炎となれ!」

 火神プロクスの神力を帯びた赤き炎が俺の持つナタを覆い、悪魔の黒き皮膚を切り裂……刃は悪魔の肩に食い込むことすらなく、金属に当たったような感触が手に響くのみ。

「見てみろ!神の力なんて無力!」

 三日月のように歪めた口から、また神を愚弄する言葉が出てきたのだった。



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登録日 2023.02.09 23:48

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