古ぼけた家
ある丘の上に、古ぼけた家があった。
その家には、かつて、四人の家族が住んでいた。
けれど、いまはもう、住んではいない。
それはどうしてか?
まあ焦らず。
あとで語ることにしよう。
ここで、部屋の中をすこし、見てみようか。
奥に、火のついていない暖炉がある。
暖炉の前には、ほこりまみれの、すり切れた絨毯が敷かれている。
そこには、まるでついさっきまで、こどもが遊んでいたかのように、列車とレールが置かれていた。
これは長男、マーティンのおもちゃだ。
そのマーティンのおもちゃのある横では、女の子のお人形がひとつ、投げられていた。
女の子のお人形は、長い間、誰にも遊んでもらえていないためか、なんだかとても悲しそうな顔をしているように見える。
そんなお人形の持ち主は、長女のミリーだ。
さて、そういった二人の子供の持ち物がある、前のテーブルと椅子には、これまた興味深いものが置かれていた。
それは、顕微鏡と、小さな瓶の数々、それから、いくつかのシャーレなんかだ。
そして、そのまわりには、頭がズキズキ痛むような数字だったり、難しい言葉がたくさん書かれてある、資料なんかもある。
きっと熱心に研究していたんだろう。
テーブルに置かれてあるコーヒーは、まだコップの中に、たぷたぷと残っていた。
それにケーキも、カチコチに固まってしまっているが、手つかずのままだ。
そんな研究熱心な人は、この家でただ一人、生物学者の父、テッドだけだ。
では次に、テッドのいるテーブルの様子がよく見える、ソファを見てみよう。
そのソファの上には、木のあみ針と毛糸が、繋がったままの、まだ編みかけの靴下、それから完成している二つの小さな靴下が置かれてある。
見たところ、きっとこの靴下は、子供たちとテッドの、靴下だったのだろう。
そんな優しい性格の、この編みものが得意な人物は、この家の母である、マデリンだ。
四人は、いつものように、部屋でくつろいでいたはずだった。
でも、たった一瞬で、そのしあわせなひと時は、何者かに奪われてしまった。
その犯人は——
つづく
大森
その家には、かつて、四人の家族が住んでいた。
けれど、いまはもう、住んではいない。
それはどうしてか?
まあ焦らず。
あとで語ることにしよう。
ここで、部屋の中をすこし、見てみようか。
奥に、火のついていない暖炉がある。
暖炉の前には、ほこりまみれの、すり切れた絨毯が敷かれている。
そこには、まるでついさっきまで、こどもが遊んでいたかのように、列車とレールが置かれていた。
これは長男、マーティンのおもちゃだ。
そのマーティンのおもちゃのある横では、女の子のお人形がひとつ、投げられていた。
女の子のお人形は、長い間、誰にも遊んでもらえていないためか、なんだかとても悲しそうな顔をしているように見える。
そんなお人形の持ち主は、長女のミリーだ。
さて、そういった二人の子供の持ち物がある、前のテーブルと椅子には、これまた興味深いものが置かれていた。
それは、顕微鏡と、小さな瓶の数々、それから、いくつかのシャーレなんかだ。
そして、そのまわりには、頭がズキズキ痛むような数字だったり、難しい言葉がたくさん書かれてある、資料なんかもある。
きっと熱心に研究していたんだろう。
テーブルに置かれてあるコーヒーは、まだコップの中に、たぷたぷと残っていた。
それにケーキも、カチコチに固まってしまっているが、手つかずのままだ。
そんな研究熱心な人は、この家でただ一人、生物学者の父、テッドだけだ。
では次に、テッドのいるテーブルの様子がよく見える、ソファを見てみよう。
そのソファの上には、木のあみ針と毛糸が、繋がったままの、まだ編みかけの靴下、それから完成している二つの小さな靴下が置かれてある。
見たところ、きっとこの靴下は、子供たちとテッドの、靴下だったのだろう。
そんな優しい性格の、この編みものが得意な人物は、この家の母である、マデリンだ。
四人は、いつものように、部屋でくつろいでいたはずだった。
でも、たった一瞬で、そのしあわせなひと時は、何者かに奪われてしまった。
その犯人は——
つづく
大森
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登録日 2021.11.06 15:01
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