コンビ二行って来るけど、なにかいる?
夜中だった。俺はベランダで煙草を吸っていて、その背中に凌の声を聞いた。
「べつに。」
いつも通り返すと、そっか、と凌もいつも通りの返事をして、部屋を出て行った。そして、それっきりだ。凌は朝になっても、次の夜になっても、その次の朝がきても、帰っては来なかった。男二人の同居生活は、そうやって終わったのだ。
文字数 15,086
最終更新日 2025.12.28
登録日 2025.12.14
行けるとこまで、いっそ行ってしまおうと思った。半年前のことだ。陸とふたりで、なにもかもを捨てて。でも、その気になったらなったで気が付いたこととして、俺には大して捨てるものなんかなかった。陸にはたくさん、それこそ数えきれないくらい、あったのだろうけれど。それでも陸は、いいよ、と微笑んだ。曖昧な微笑だった。感情なんてどこにもないみたいな。いつも快活でくるくると明るく表情を変える陸とは思えないような表情。俺はその顔を見て、二年前、高校三年の梅雨、しとしとと細くしつこい雨が降る夕方、はじめて陸とキスをしたときのことを思い出した。
文字数 7,947
最終更新日 2025.11.09
登録日 2025.11.02
『悠一くんだよ。今日から、明日美のお兄ちゃんだ。』 悠ちゃんを連れて帰ってきたお父さんは、笑ってそう言った。
文字数 28,096
最終更新日 2025.11.01
登録日 2025.10.05
あのひとが、観音通りに通っている。ある娼婦の元に、足しげく。 そのことを円花が知ったのは。高校二年生の夏のことだった。
文字数 21,000
最終更新日 2025.09.03
登録日 2025.08.14
「お前は、いつまで俺のこと好きでいるんだろうな。」
そんなことを言われた。確かに、好きなひとだった。一度も口にしたことはないけれど、蒼大の気持ちなんてだだ漏れで、ずっと普通に恭弥には、好かれている、という意識があったのだろう。
「……。」
ずっとだよ、とは、言えなかった。悔しかったということもある。恭弥が、男で、しかも五つ年下の子どもである蒼大になんて、まるで振り向いてくれないことは分かっていたから。そして、自分の気持ちが分からなかった、ということもある。蒼大は今、高校一年生だ。自分の若さは、自分で分かっている。その若さにおされて、気持ちがころころ変わることも。
文字数 18,948
最終更新日 2025.08.13
登録日 2025.07.26
その夜、雛子がおんなを引っかけたのは、別に特別なことではなかった。ただ、自分が投げやりになっている気配は感じていた。
文字数 12,207
最終更新日 2025.06.21
登録日 2025.06.10
夫が一緒に泊まっている相手は、同性愛者だし、夫を好きだ。あのひとはいつでも、悲しくなるほど夫のことしか見ていなかった。
文字数 10,301
最終更新日 2025.06.09
登録日 2025.05.31
「一緒に死のう。」 電話に出るなり、男の声がそう言った。こんなことを開口一番言ってくる相手なんか、ひとりしかいない。
文字数 14,059
最終更新日 2025.05.30
登録日 2025.05.17
彼が俺をまるで愛さなかったことくらいは、あの頃も今も分かっているけれど、俺はどうしようもなく彼を愛した。今も、愛している
文字数 20,979
最終更新日 2025.04.23
登録日 2025.04.03
弟にはなんて呼ばれてたの、と、真央が訊くと、貴子、と彼女は答えた。そのときの表情は、ちょっと驚くほど艶っぽくて、真央は彼女が弟の話をしているのだよな、と、確かめたくなったほどだった。
文字数 32,059
最終更新日 2025.04.02
登録日 2025.03.02
恋だのなんだのということは、よく分からない。ただ、私はなにかにつけてあのひとのことを思い出すというだけのことだ。
文字数 38,102
最終更新日 2025.03.01
登録日 2025.01.23
兄貴が、男娼になっていた。しかもヒモ(驚くべきことに、なのか? 男だ。)つきの。俺はそれを知って、人生で一番くらい驚いた
文字数 21,199
最終更新日 2024.11.30
登録日 2024.11.10