村咲

村咲 (著者名:赤村咲)

妹ばかり~ 5章28話没話(1)

供養
本編よりもヘイトがたまる書き方なので、苦手な方は読まない方が良いです。
◆◆◆

・妹視点

「なにを馬鹿なことを言っている」

 父の声は低く、淡々としていた。
 据えた目がアーシャを捉え続け、握られた手は離れない。
 痛みに顔をしかめても、父は知ったこともないという様子だった。

「お前まで私に逆らおうと言うのか?」
「お、お父さま、そういう意味では……」
「伯爵家がどうなってもいいのか? 家族のことはどうでもいいのか? お前はそんな薄情な娘だったか?」
「い、いえ……!」

 慌てて首を横に振るが、父がまるで信用していないことは、手にこもる力から明らかだった。
 思わず、というようにベッドの上に身を乗り出す父に、アーシャは体を強張らせる。

「それなら、どうして私の言うことが聞けない」
「だ、だって公爵さまとお姉さまは……お父さま、誤解していらっしゃるのよ。お姉さまは家族を傷つけようとはしないわ。ただ、お姉さまご自身が幸せに――」
「そんなわけないだろう」

 目の前で、父がハッと鼻で笑う。
 優しさも、普段の鷹揚さも見られない。どこか神経質で、病的な笑みだった。

「あれは私を陥れようとしているに決まっている。……ああ、わかった。あいつは弟に似ているんだ。あのグズで間抜けで、私の地位を奪おうとしたあいつと!」
「なにを……なにをおっしゃるの、お父さま……」
「どいつもこいつも、私を妬んでばかりだ! アーシャ! お前だって他人事ではいられないんだぞ!」

 なにが父を刺激してしまったのか。
 血走った目に体が震える。

 父の弟――叔父は先の戦争で、不幸にも戦死してしまった人だ。
 兄である父をよく支え、暴走しがちな父を宥める――仲の良い兄弟だったと聞いていたのに。
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登録日 2020.01.22 23:25

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