村咲

村咲 (著者名:赤村咲)

妹ばかり~ 3章7話没話(3)

 熱でひしゃげた銀の塊が、姉に贈ったブローチであることに気付くのに、アーシャは少し時間がかかった。
 自分が込めた魔力も、ブローチの形も、今は原形をとどめていない。
 渾身の想いを注いだはずなのに――ものすごい力で捻じ曲げられているのだ。

 ――あれだけの力を込めたのに……!?

 ひっ、と喉の奥からしゃっくりみたいな声が出た。
 ブローチが肩代わりした魔力は、ひしゃげた形の通り、相手を捻りつぶすほどの容赦ないものだ。
 ぞっとして姉を見るけれど、彼女はただ、すまなそうにアーシャを見ているだけだ。

「せっかくくれたのに、壊してしまってごめんなさい」
「お、お姉さま……!」

 アーシャは首を横に振る。
 姉は気が付いていないようだけど――彼女の置かれた状況が、どれほど恐ろしいものだったのかを、アーシャには理解できてしまう。
 姉は「怖い思いは一度だけ」と言ったけど、たぶんもっとずっと……何度も危機があったはずだ。そうでなければ、ブローチがここまで壊れるはずがない。
 姉が無事に帰ってくる可能性は、アーシャが思っていたよりもずっとずっと低かったのだ。

「よ、よかった……無事に戻られて……」

 震える声で言いながら、アーシャは姉の手を掴んだ――瞬間。

「ひ……っ」

 その感触に、アーシャは再び引きつった声を上げた。
 姉の細い手も、体温も変わらないのに――彼女を取り巻くなにもかもが違う。

 なにも知らず、首を傾げる姉の周囲。
 アーシャの知らない誰かの、凍り付くように冷たい魔力が、呪いのように彼女の体を覆っていた。
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登録日 2019.12.31 21:08

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