segakiyui

segakiyui

『ラズーン』『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』連載中。メルマガ『ショートストーリーシリーズ』『指令T.A.K.I』『ドラゴン・イン・ナ・シティ』展開。

『ラズーン』第一部 8.『太陽の池』(5)(個人サイトでアップ)

 水を汲もうと泉を覗き込んだアシャは水面に映った自分の姿を見つめた。灯火もないのに、水面の暗い鏡にアシャの姿はくっきりと浮かび上がっている。よく見るとそれは、体の周囲をゆらゆらと包む、陽炎のような淡い靄のせいだとわかる。
 靄は霞み揺らぎながら、やがて寄り集まって形を作った。左右に伸びて羽ばたく猛禽類の翼のように、頭の周囲に濃く集まって光り輝く王冠のように、幾重にも体を覆って豪奢なマントのように、周囲へ飛び離れて全身を猛々しく研ぎすまされた剣で飾るように、腰から下に寄り集まって担ぎ上げる台座のように。やがて見つめる視線に気付いたように緩やかに解け、元通り薄く淡く体を包む。
 誰を巻き込むわけにもいかない。
 いつかのユーノの思いは、アシャにもまた近しいもので。
「…」
 唇を噛み締めてそれら1つ1つを凝視していたアシャは、背後に動いた気配に足を滑らせ小石を泉に落とした。ぼちゃんと音がして水鏡が乱れると同時に、剣に手をかけ振り返る。
 木々の隙間を翻るような黒い影が一瞬見えた気がしたが、すでに気配はない。刺客にしては素早すぎる動きだ。少し待ったが、辺りは静まり返って再び戻ってくる様子もない。
(過敏になりすぎているのか?)
コメント 0
登録日 2017.01.23 23:33

コメントを投稿する

1,000文字以内
この記事に関するコメントは承認制です

ログインするとコメントの投稿ができます。
ログイン  新規ユーザ登録

0

処理中です...

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。