『桜の護王』10.直面(ひためん)(6)
そんなことはない。洋子は護王に添いたくて、護王と一緒になれるかもしれないと思って、胸をときめかせながらやってきた。が、今となっては、その期待感さえも恥ずかしい。口に出せるものではない。
「さっさと見定めて」
できるだけ冷ややかに突き放した声を出した。
「それは……」
護王の瞳が不安定に揺れている。薄く染まった頬になおも血の色が集まっていって、桜を思わせる華やかさ、それがまた見愡れるほどにきれいな表情で洋子は思わず目を奪われて、次の瞬間絞られるような痛みを感じた。
(それでも、それは、あたしのものやない)
くやしいのか悲しいのか切ないのか、今はもうわからない。ただ、どこまでいっても自分ではどうにも役に立たないのだと思い知らされるばっかりで。
「それは……花王紋……や」
「わかった。ほなもうええやろ」
掠れた声で護王が応じて洋子は急いでブラウスをかき寄せた。ボタンをはめるのもそこそこに立ち上がって廊下に出ようとする。
「さっさと見定めて」
できるだけ冷ややかに突き放した声を出した。
「それは……」
護王の瞳が不安定に揺れている。薄く染まった頬になおも血の色が集まっていって、桜を思わせる華やかさ、それがまた見愡れるほどにきれいな表情で洋子は思わず目を奪われて、次の瞬間絞られるような痛みを感じた。
(それでも、それは、あたしのものやない)
くやしいのか悲しいのか切ないのか、今はもうわからない。ただ、どこまでいっても自分ではどうにも役に立たないのだと思い知らされるばっかりで。
「それは……花王紋……や」
「わかった。ほなもうええやろ」
掠れた声で護王が応じて洋子は急いでブラウスをかき寄せた。ボタンをはめるのもそこそこに立ち上がって廊下に出ようとする。
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登録日 2016.09.08 00:52
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