『ラズーン』第一部 1.二つの名の下に(1)(個人サイトでアップ)
風が渡る。
固い織の飾り一つないチュニックの裾を、跨がった愛馬レノの白いたてがみを、波立つそよぐ草原にただ一人立つ、ユーノの額にかかる髪を巻き上げて。
目を閉じ、その冷たさと強さをじっと味わう。
たとえようもなく、独りだ。
けれど、それでいい。
大事な人が笑うなら。
平和に憩うこの国を守れるなら。
僅かな間の幻にしか過ぎないとしても、破滅を気づかせないために全力を尽くす、皇女として、人として。
きっと、そのために生まれてきた。
そのためだけに生きているのだ。
「父さま、母さま、レアナ姉さま、セアラ」
呟いて、ユーノは目を見開く。
「……サルト…」
守り切れなかった。
傷みに唇を噛む。
拳を握り締めて俯く、前髪を風が散らす。
引くな。逃げるな。たじろぐな。
一歩たりとも怯むんじゃない。
この体には命の約束がかかっている。
「……っ」
ふいに一瞬、甘い花の香りがして、はっと顔を上げた。
微かな予感に体が震える。
それを、怖い、と感じた。
初めて胸の奥に疼く気持ちだ。
不安が募る。
(何?)
誰か年経た友人がいれば、微笑みながらこう教えただろう。
それは誰かを愛したいという声だ。
お前が誰かに愛されたいという願いだ。
これから始まる大きな物語の予兆なのだ、と。
だが、ユーノにはそのような友人はいない。
ユーノはまだ気づかない。
魂を揺さぶる出会いが、もうそこまでやってきている。
固い織の飾り一つないチュニックの裾を、跨がった愛馬レノの白いたてがみを、波立つそよぐ草原にただ一人立つ、ユーノの額にかかる髪を巻き上げて。
目を閉じ、その冷たさと強さをじっと味わう。
たとえようもなく、独りだ。
けれど、それでいい。
大事な人が笑うなら。
平和に憩うこの国を守れるなら。
僅かな間の幻にしか過ぎないとしても、破滅を気づかせないために全力を尽くす、皇女として、人として。
きっと、そのために生まれてきた。
そのためだけに生きているのだ。
「父さま、母さま、レアナ姉さま、セアラ」
呟いて、ユーノは目を見開く。
「……サルト…」
守り切れなかった。
傷みに唇を噛む。
拳を握り締めて俯く、前髪を風が散らす。
引くな。逃げるな。たじろぐな。
一歩たりとも怯むんじゃない。
この体には命の約束がかかっている。
「……っ」
ふいに一瞬、甘い花の香りがして、はっと顔を上げた。
微かな予感に体が震える。
それを、怖い、と感じた。
初めて胸の奥に疼く気持ちだ。
不安が募る。
(何?)
誰か年経た友人がいれば、微笑みながらこう教えただろう。
それは誰かを愛したいという声だ。
お前が誰かに愛されたいという願いだ。
これから始まる大きな物語の予兆なのだ、と。
だが、ユーノにはそのような友人はいない。
ユーノはまだ気づかない。
魂を揺さぶる出会いが、もうそこまでやってきている。
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登録日 2016.12.06 23:52
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