segakiyui

segakiyui

『ラズーン』『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』連載中。メルマガ『ショートストーリーシリーズ』『指令T.A.K.I』『ドラゴン・イン・ナ・シティ』展開。

『ラズーン』第一部 1.二つの名の下に(1)(個人サイトでアップ)

 風が渡る。
 固い織の飾り一つないチュニックの裾を、跨がった愛馬レノの白いたてがみを、波立つそよぐ草原にただ一人立つ、ユーノの額にかかる髪を巻き上げて。
 目を閉じ、その冷たさと強さをじっと味わう。
 たとえようもなく、独りだ。
 けれど、それでいい。
 大事な人が笑うなら。
 平和に憩うこの国を守れるなら。
 僅かな間の幻にしか過ぎないとしても、破滅を気づかせないために全力を尽くす、皇女として、人として。
 きっと、そのために生まれてきた。
 そのためだけに生きているのだ。
「父さま、母さま、レアナ姉さま、セアラ」
 呟いて、ユーノは目を見開く。
「……サルト…」
 守り切れなかった。
 傷みに唇を噛む。
 拳を握り締めて俯く、前髪を風が散らす。
 引くな。逃げるな。たじろぐな。
 一歩たりとも怯むんじゃない。
 この体には命の約束がかかっている。
「……っ」
 ふいに一瞬、甘い花の香りがして、はっと顔を上げた。
 微かな予感に体が震える。
 それを、怖い、と感じた。
 初めて胸の奥に疼く気持ちだ。
 不安が募る。
(何?)
 誰か年経た友人がいれば、微笑みながらこう教えただろう。
 それは誰かを愛したいという声だ。
 お前が誰かに愛されたいという願いだ。
 これから始まる大きな物語の予兆なのだ、と。
 だが、ユーノにはそのような友人はいない。
 ユーノはまだ気づかない。
 魂を揺さぶる出会いが、もうそこまでやってきている。
コメント 0
登録日 2016.12.06 23:52

コメントを投稿する

1,000文字以内
この記事に関するコメントは承認制です

ログインするとコメントの投稿ができます。
ログイン  新規ユーザ登録

0

処理中です...

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。