『桜の護王』15.無限環(1)アップ。
餓えが人々を襲い弱き者脆き者が強き者猛き者に喰らわれた。
だがそうして貪った者も天運伴わず次々と死んでいく。
この里は死人に満ち腐臭に浸された。
その中でなぜか赤子一人が我が元に置ざ去られていたのだ。
せめてわが子を喰らうまいとした母親の切なる願いででもあったのだろうか。
桜の声が語る中で、樹の根元にぼろに包まれた小さな体がぼんやりと浮かび上がった。か細い泣き声があがり、枯れ木のような指が空を掴む。その指に、散る桜の花弁がまとわりつき誘うように滑り落ちた。感触に気づいたのか、あるいは生きるための本能だろうか、赤子は這いずるように桜の根元に近づき、ついにはその幹の節くれだった根が盛り上がったところにむしゃぶりついた。そのまま母親の乳を吸うように、ちゅうちゅうと吸いつき始める。
花が散り、葉が茂り、紅葉を舞わせ、影絵を落とす枝が広がった。赤子は緩やかに、けれども少しずつ大きくなっていく。真っ黒な目で花が舞うのを見て笑い、葉が騒ぐのに驚いて泣き、舞う赤や黄の葉を拾っては口に入れて楽しみ、冬木の枝の一筋ずつを辿って何やら独りつぶやいていた。が、やがて、赤子は疫病避けの祭をするために御神体を探して山へ入り込んできた里人に見つかり、格好の神降ろしの存在として桜里に連れ去られていく。
(それが護王なのですね)
だがそうして貪った者も天運伴わず次々と死んでいく。
この里は死人に満ち腐臭に浸された。
その中でなぜか赤子一人が我が元に置ざ去られていたのだ。
せめてわが子を喰らうまいとした母親の切なる願いででもあったのだろうか。
桜の声が語る中で、樹の根元にぼろに包まれた小さな体がぼんやりと浮かび上がった。か細い泣き声があがり、枯れ木のような指が空を掴む。その指に、散る桜の花弁がまとわりつき誘うように滑り落ちた。感触に気づいたのか、あるいは生きるための本能だろうか、赤子は這いずるように桜の根元に近づき、ついにはその幹の節くれだった根が盛り上がったところにむしゃぶりついた。そのまま母親の乳を吸うように、ちゅうちゅうと吸いつき始める。
花が散り、葉が茂り、紅葉を舞わせ、影絵を落とす枝が広がった。赤子は緩やかに、けれども少しずつ大きくなっていく。真っ黒な目で花が舞うのを見て笑い、葉が騒ぐのに驚いて泣き、舞う赤や黄の葉を拾っては口に入れて楽しみ、冬木の枝の一筋ずつを辿って何やら独りつぶやいていた。が、やがて、赤子は疫病避けの祭をするために御神体を探して山へ入り込んできた里人に見つかり、格好の神降ろしの存在として桜里に連れ去られていく。
(それが護王なのですね)
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登録日 2016.11.29 23:50
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