『桜の護王』10.直面(ひためん)(3)アップ。
はら、と洋子の気持ちを察したように、目許すぐに桜の花が降り落ちてきて、息を呑んだ。風も止まっているのに、まだ満開でもないのに、いきなりふいに洋子を慰めるかのように数を増して散ってくる花弁。
雪が降ってくる空を見上げているような気持ちになってくる。遥か天界の彼方へ静かに迎え上げられるような。
(いきたかった)
還りたかった。痛みのない、苦しみのない、悲しみのない、永遠の楽土。
けれど掌には、すがりつくような人の温もりがあったから。
詰めていた息が無意識に漏れた。
「願わくは……って……誰の句だっけ……」
つぶやいた声が泣き濡れて掠れていた。
「願わくは花のしたにて春死なむ……だっけ」
過熱していた頭が見えない優しい指先に撫でられ鎮められ冷えていく。乱れていた呼吸がゆっくりとおさまって胸の中に深さを増す。
「その……きさらぎの……望月の…ころ……?」
(ああ、西行法師、だったっけ…)
耳もとで囁かれるのを聞いたようにつぶやき、目を閉じた。
(確かにこういうところで死ぬのは……いいかもしれない…)
意識の深みに呑まれるように、洋子はゆっくりと眠りに誘われていった。
雪が降ってくる空を見上げているような気持ちになってくる。遥か天界の彼方へ静かに迎え上げられるような。
(いきたかった)
還りたかった。痛みのない、苦しみのない、悲しみのない、永遠の楽土。
けれど掌には、すがりつくような人の温もりがあったから。
詰めていた息が無意識に漏れた。
「願わくは……って……誰の句だっけ……」
つぶやいた声が泣き濡れて掠れていた。
「願わくは花のしたにて春死なむ……だっけ」
過熱していた頭が見えない優しい指先に撫でられ鎮められ冷えていく。乱れていた呼吸がゆっくりとおさまって胸の中に深さを増す。
「その……きさらぎの……望月の…ころ……?」
(ああ、西行法師、だったっけ…)
耳もとで囁かれるのを聞いたようにつぶやき、目を閉じた。
(確かにこういうところで死ぬのは……いいかもしれない…)
意識の深みに呑まれるように、洋子はゆっくりと眠りに誘われていった。
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登録日 2016.09.04 12:19
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