『アシュレイ家の花嫁』10.愚者 アップ。
「芽理」
呼ばれて振り返ると、クリスがまばゆそうな目をしてこちらを見ていた。
「部屋に戻るの?」
舌足らずに問いかけられる。マ-スを思わせる声の甘さにも芽理は警戒を緩めなかった。確かにここ数日、珍しくクリスはほとんど部屋から出てこなかったし、夜マースの部屋を訪れることもない。
「うん」
うなずいて顔だけそちらに向け、冷ややかに応じる。
「何か?」
「君は……変わったね」
相手が何を言い出したのかわからなくて、無言で睨みつけていると、青い目が気弱く瞬いて窓に逃げた。いつもマ-スより華やかな表情がくすんでいる。
窓の外では夕暮れのオレンジが最後の明かりを弾けさせながら消えていこうとしていた。それは、いつかの、不実を責めた芽理に視線を逸らせたマ-スが見遣った空によく似ていて、胸の底にざくざくとした傷みを滲ませた。
(きっといつまでもずっと)
この傷みを引きずっていくんだろう。大切な人を自分の手で傷つけた、そういう想いにひりひりしながら。それは今も同じことをしているのだという想いのせいであるかもしれないけれど。
「うんと強くなって……うんと……きれいになった」
「……」
「兄さんの、せい?」
呼ばれて振り返ると、クリスがまばゆそうな目をしてこちらを見ていた。
「部屋に戻るの?」
舌足らずに問いかけられる。マ-スを思わせる声の甘さにも芽理は警戒を緩めなかった。確かにここ数日、珍しくクリスはほとんど部屋から出てこなかったし、夜マースの部屋を訪れることもない。
「うん」
うなずいて顔だけそちらに向け、冷ややかに応じる。
「何か?」
「君は……変わったね」
相手が何を言い出したのかわからなくて、無言で睨みつけていると、青い目が気弱く瞬いて窓に逃げた。いつもマ-スより華やかな表情がくすんでいる。
窓の外では夕暮れのオレンジが最後の明かりを弾けさせながら消えていこうとしていた。それは、いつかの、不実を責めた芽理に視線を逸らせたマ-スが見遣った空によく似ていて、胸の底にざくざくとした傷みを滲ませた。
(きっといつまでもずっと)
この傷みを引きずっていくんだろう。大切な人を自分の手で傷つけた、そういう想いにひりひりしながら。それは今も同じことをしているのだという想いのせいであるかもしれないけれど。
「うんと強くなって……うんと……きれいになった」
「……」
「兄さんの、せい?」
コメント 0件
登録日 2016.11.19 11:40
0
件
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。