星神ステルラに願う1〜この死から逃れるすべを〜
とうとうこんな辺境の田舎まで奴らがやって来てしまった。
俺は弟の手を引いて森の中を逃げ惑うが、暗闇で足元が悪く足が取られてしまう。弟など何度も体勢を崩し、足を止めただろうか。
背後から村人の悲鳴に混じり、高笑いする声が頭に響いてくる。奴らは人をもてあそび殺していくらしい。そう、人の苦しんでいる様を見て楽しむのだ。
今日は新月だ。普段であれば2つの月が空に浮かび辺りを照らし、行く先を導いてくれるはずだった。だが、森の中は暗闇で満たされ、空を見上げても夜の星々しか見えない。きっと奴らは新月だとわかって襲ってきたに違いない。
「にぃちゃ……ん。ぼくをおいて……いって」
息を切らしながら震える足を必死に動かしている弟のユリウスが言ってきた。
「ユリウス、兄ちゃんは絶対にこの手は外さないからな」
俺は左手を強く握って答えた。何があってもこの手は離さない。
「ユリウス、顔を上げて見てみるといい。赤い星がよく見えるだろ?」
「う……うん」
新月なので夜空には多くの星々が満たしていた。
「あっちの青い星と白い星を繋げてみたらどんな形だ」
俺は空の星を指し示し、じいさんに教えてもらった言葉を思い出しながらユリウスに話しかける。
「よく……わからない」
ユリウスの声からは今はそんな事を言っている場合じゃないという雰囲気が出ている。だが、大事なことだ。
「三角形だ。その中心には何も見えないがあの中心には星神ステルラ様の冬の神殿があると言われている。冬に迷ったときはその三角形を探して祈るといい。必ず星神ステルラ様の導きが得られる」
「ステルラ…………」
「三角形を探すんだぞ」
星神ステルラ様はどのような者にでも、正しい道へ導いてくださる星の女神様だ。
どうか俺たちが……いや、弟だけでもこの絶望から生き残れる道に導いてください。
俺は夜空に輝く星々に願った。背後から忍び寄る死を退けられる何かを俺たちに与えて欲しいと。
「ユリウス、だから……」
俺は左手に違和感を感じ、立ち止まる。
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登録日 2023.02.09 23:46
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