小学生の頃からたくさんの本を読んできた。小学校の図書館での貸し出し数がいちばん多かったと聞いた。
　そんな私が星新一先生の作品にはじめてふれたのは高校生の頃だった。それまでは芥川龍之介や夏目漱石など、いわゆる名作といわれる作品を読むことが多かった。人生とはなにか？　生きるとはなにかという答えを模索するために、日々、読書にのめり込んでいた。もちろん、読書だけでなく、作詞作曲活動もし、ときおりライブ演奏や卓球の部活動にも精を出していた。しかし、本の世界に浸らない日はなかった。
　
　そんなある日に、弟が買ってきた星新一の「ボッコちゃん」を読み、本を読むことの別の喜びを体験することができた。いままでは、新たな知識を得られたことに対する喜びや、小説のなかでの登場人物の人生を疑似体験することによって、自分自身の人生を共鳴させたり、感動したりする喜びが主だった。星新一先生の作品は、詳細に描写しているわけでもないのに、心のなかに無限にさまざまな世界が浮かんでくるのだ。エンターティメントでありながら、人生や人間の悲哀や、社会に対する風刺までがある。星先生の全作品を読破するのにさほど時間はかからなかった。

　そして私も星先生に憧れてショートショートを書くようになった。簡単そうにみえるショートショートだが、実際に書いてみると奥が深いものだと考えさせられた。運良く、さまざまな雑誌や新聞に、私のショートショートが入選し、ほかの人に読んでもらえる喜びを知った。感想は人それぞれだが、私の人生の一端を、この世界に刻みつけられた充実感があった。今では短編や長編も書いているが、ショートショートは私の原点。たった一言が人を傷つけたり感動させたりできるものだ。小説の短歌ともいえるショートショートは大切にしたい日本の文化のひとつだと思っている。

　　　　　　　　　（了）