『アンカー』7アップ。
「はい、どうぞ」
松井は、広子とやり合ったことなどなかったように出迎えた。
「今、十時ちょうどですから、十一時まで」
広子はうなずいた。
この前の広子は怒鳴り散らしていた。その前の広子は警戒心で一杯で、丁寧ではあったが冷ややかだった。
今日の広子は、この二、三日の変化で疲れきっていて、口を開くのも億劫な気がした。
まるで広子が三人いて、それらが交互に松井を訪ねているような状態なのに、松井の目は揺らいだふうもない。
同じようにお茶をいれ、同じように座り、同じように軽く首を傾げて広子を見る。
松井は溺れているようには見えない。けれど、流されているようにも見えない。
静かな湖のようだ、と広子は思った。
「夫が浮気してるの」
ぽちゃんと音がしたような気がした。
松井は、広子とやり合ったことなどなかったように出迎えた。
「今、十時ちょうどですから、十一時まで」
広子はうなずいた。
この前の広子は怒鳴り散らしていた。その前の広子は警戒心で一杯で、丁寧ではあったが冷ややかだった。
今日の広子は、この二、三日の変化で疲れきっていて、口を開くのも億劫な気がした。
まるで広子が三人いて、それらが交互に松井を訪ねているような状態なのに、松井の目は揺らいだふうもない。
同じようにお茶をいれ、同じように座り、同じように軽く首を傾げて広子を見る。
松井は溺れているようには見えない。けれど、流されているようにも見えない。
静かな湖のようだ、と広子は思った。
「夫が浮気してるの」
ぽちゃんと音がしたような気がした。
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登録日 2017.05.22 08:26
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