『朱の狩人』9.月の未来図 (2)アップ
朱乃の感じたその傷みは、仁の胸にも広がった。強く切ない激しい哀願として。
許シテクレヨナァ……オレハオ前ヲ壊シタカラ……コンナ目ニ会ウンダキット……。
(きしん……)
今にも気だるく溶け崩れていきそうな仁の意識の中で、その哀願が光を放ち、明滅しながら呼び掛けてきた。心身共に蹂躙されて自分を手放そうとした仁の心を、守るようにいたわるように、淡い光に輝きながら包み込みささやきかけてくる。
オ前ニ会イタカッタナァ…………コレデ死ンデシマウナラ……オ前ニモ1度……会イタカッタナァ。
(きし……ん……)
どろりとした熱い感覚の中に、きしんの声が清冽に響いた。よく冷えた谷川の水さながらに、炎を巻く流れに注ぎ込まれてきたそれが、熱を取り、傷みを和らげ、仁の心を朱乃の怒りから少しずつ少しずつ切り離していく。
小学校に入って初めて隣になった子どもは、にかっと笑うと歯が1本抜けていた。鉛筆を次々折ってしまう不器用な仁を見兼ねて、これ使え、と2本差し出してくれた。おれ、おおつかよしのぶ。けど、きしんでいいぜ、そう呼ばれるの、きにいってるんだ。明るくて面白くて元気で。
オレ、ドレダケ、オマエノコト、好キダッタノカ、ズットズット忘レテタ……。
許シテクレヨナァ……オレハオ前ヲ壊シタカラ……コンナ目ニ会ウンダキット……。
(きしん……)
今にも気だるく溶け崩れていきそうな仁の意識の中で、その哀願が光を放ち、明滅しながら呼び掛けてきた。心身共に蹂躙されて自分を手放そうとした仁の心を、守るようにいたわるように、淡い光に輝きながら包み込みささやきかけてくる。
オ前ニ会イタカッタナァ…………コレデ死ンデシマウナラ……オ前ニモ1度……会イタカッタナァ。
(きし……ん……)
どろりとした熱い感覚の中に、きしんの声が清冽に響いた。よく冷えた谷川の水さながらに、炎を巻く流れに注ぎ込まれてきたそれが、熱を取り、傷みを和らげ、仁の心を朱乃の怒りから少しずつ少しずつ切り離していく。
小学校に入って初めて隣になった子どもは、にかっと笑うと歯が1本抜けていた。鉛筆を次々折ってしまう不器用な仁を見兼ねて、これ使え、と2本差し出してくれた。おれ、おおつかよしのぶ。けど、きしんでいいぜ、そう呼ばれるの、きにいってるんだ。明るくて面白くて元気で。
オレ、ドレダケ、オマエノコト、好キダッタノカ、ズットズット忘レテタ……。
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登録日 2017.02.19 00:36
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