したがって、子ども一人ひとりの特性に合わせてデジタル端末の使い方を工夫する必要があり、教員の子どもたちへの理解、『目利き力』が重要となってきます。現状、多くの公立小中学校では、例えば国語の授業で紙の教材を使った読み書きが苦手な子どもを少人数でデジタル端末を活用する支援学級でサポートするなど、個別最適化を図る取り組みが行われています。また、『ここでは全員がデジタル端末を使用し、ここでは全員が紙の教材を使い、別の場面では子どもごとに教材を使い分ける』といったスイッチングの工夫にも注目が集まっています」
そんなデジタル教育の先進国であるスウェーデンで、教育現場における脱デジタル化の動きが広まっているという。10月22日付「読売新聞」記事によれば、デジタル教育への移行が進んだ近年、学力の低下がみられるようになり、OECD(経済協力開発機構)が22年に実施した国際学習到達度調査(PISA)では「読解力」「数学的応用力」「科学的応用力」のすべてで前回(18年)の調査から順位を下げたという。日本でも同様の動きとなる可能性は考えられるのか。
「日本では、デジタル端末の活用が欧米に比べて遅れていると言われることがありますが、その背景にはいくつかの理由があります。欧米では教科書が非常に厚く重く、共用であったため、自宅に持ち帰って学習するのが難しいという事情がありました。デジタル教科書を導入し、端末に教材を集約することで、その問題が解決されたのです。
一方で、日本の教科書は個別に配布されることを前提に作られており、内容が精選されて薄く軽量化されています。教科書が薄いことで、教員は1年内に全範囲を教え終えることができるというメリットもあります。そのため、デジタル教材化で動画や補足情報を追加できるのは利点ですが、『欧米の教科書は厚くて立派だが、日本の教科書は薄すぎるので、デジタル化で内容を詰め込むべきだ』とする意見は、本来の目的を見失っていると言えるでしょう。
欧米の一部の国でデジタル端末の導入が学力低下につながったと認識された理由として、特に低学年の子どもたちの情報処理能力がまだ発達段階にあることが挙げられます。この年齢の子どもたちは、紙の教材、デジタル教材、教員が黒板に書く内容、自分のノートなど、複数の情報源を同時に見る必要があると、情報を整理・処理しきれなくなることがあると考えられます。
日本でもデジタル端末の導入が学力低下につながるかという点については、一概には言えません。というのも、認知タイプによってデジタル端末の効果が異なり、端末の活用で学力が向上する子どももいれば、そうでない子どももいるためです。また、同じ子どもであっても、教科や内容によってデジタル端末の影響は変わるでしょう。
一方で、学習において、子どもが考えて出した答えが正しいかどうかを即時にフィードバックすることは、認知科学の観点から知識定着の効率を高めるとされています。したがって、デジタル端末をこうしたフィードバックを即座に提供する目的で活用すれば、どのタイプの子にとっても学力向上につながる可能性が高いと考えられます。
GIGAスクール構想はまだ導入から数年で過渡期であり、評価は難しいですが、アジア諸国は日本の教育行政をウォッチして、成功していると評価できれば自国に取り入れる傾向があるため、アジア諸国が数年先に似たような取り組みを行うのかどうかというのも、GIGAスクール構想をどう評価するのかという判断基準になってくるでしょう」
(文=Business Journal編集部、協力=仲矢史雄/大阪教育大学教授)