とはいえ、訴えた側の社員も、会社を潰そうとまでは思ってないはずだ。労働環境や残業に対する賃金は是正したいが、会社は存続するような改善方法はないのだろうか。
「いきなり労基署に行かないで、まずは会社側としっかり話し合いをする。自分が働いた勤怠実績や、出勤簿と給与明細に実際に記載されている日数や時間を突合してみて、そこで相違点や不明な点があったら給与計算担当者に聞いてみるなど、社内でできることから進めたほうがいいと思います」(同)
逆に企業側として、労基違反からの倒産を防ぐにはどのような対策を講じたら良いだろうか。
「まずは社員の勤務状況、給与計算方法について再確認して、必要に応じて管理者や社員にヒアリングするのが大事だと思います。例えば、定期的にPCの使用記録や施設の警備システム記録をチェックして、 実際の出勤簿や勤怠記録と整合させるとか。サービス残業や持ち帰り残業が行われてないかも、見て見ぬふりしない。また、就業時間の前後の朝礼とか掃除、準備、後片付けなどを労働時間としているか、強制参加の研修などはどう判断しているかなどもチェックする。こうしたことは現場はわかっていても、経営陣は知らないというケースが多いんです」(同)
昨今では、労働時間や内容に対して、より厳正さが求められる風潮になってきている。そこで「知らなかった」では済まされず、倒産に至ってしまうケースが増えているようだ。
「会社側も今まで以上に危機感を持って、労務管理をするべきです。法律で許される範囲で他専門家が労務面も手伝っているというケースもありますけど、社労士のような専門家に日頃からアドバイスをもらうのが大切だと感じます。法改正も目まぐるしいので、情報のアップデートができていないと、意図せずに違反となることも多い。トラブルが起きてからでは遅いというか、例えば上場するとか、M&Aなどの案件が出てきた時に、労務関連のリスクを抱えている会社だと難しくなってしまうこともあります」(同)
直接的に利益を生まない労務管理に時間と費用をかけられないという経営側の気持ちもわかるが、日頃から丁寧に対応したほうが結果的にコストダウンとなる。社員の訴えで倒産する前に、会社の体制と労働環境を見直してみるという当たり前の対応が求められている。
(文=清談社、協力=中健次/社会保険労務士法人ALLROUND渋谷代表)