米グーグル従業員の2022年の報酬総額(基本給・株式報酬・賞与の合計)の中央値が27万9802ドル(約4008万円)であることが明らかになるなど(7月21日付「BUSINESS INSIDER」記事より)、世界的な大手IT企業が高額な報酬で優秀な人材を引き寄せるなか、日本企業でも高度なスキルを持つIT人材を高額な報酬で採用するケースは珍しくない。たとえばメガバンクの三菱UFJ銀行が2022年春の新卒採用において、デジタル技術など専門人材の大卒1年目の年収が1000万円以上になるケースも認めたことが世間に驚きを与えた。
現在、IT業界の給与はどんな水準にあるのだろうか。2022年12月時点のデータだが、転職サイト「doda」が「dodaエージェントサービス」に登録した20歳から65歳までを対象に調査した「平均年収ランキング」によると、ITエンジニアの平均年収は442万円と、全体平均の403万円よりも39万円高かった。年代別にみると、20代が367万円、30代が495万円、40代が621万円、50代が694万円。調査対象者の所属先は大手企業から中小・小規模企業まで幅広いと推察できるが、格別高いという印象はない。
ただ、IT業界もいくつかのカテゴリーに分類され、カテゴリーごとに平均年収に差異がある。参考になるのが、ブログ「Publickey」の運営者であり、一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA)総合アドバイザーの新野淳一氏が作成したカテゴリー別の平均年収ランキング(2023年版)だ。このランキングは上場企業の有価証券報告書に記載されたデータをもとに作成し、IT系企業を
・ネットベンチャー系
・ゲーム/エンターテイメント系
・オンラインメディア系
・アフィリエイトとSEO/SEM系
・パッケージソフトウェア/サービス系
・SIer/システム開発系
・組み込み系
・ISP/ホスティング/クラウド/通信キャリア系
の8つのカテゴリーに分類している。ランキングをみると、カテゴリー別に平均年収に差異があるが、新野氏はどのように捉えているのだろうか。
「トップ企業の平均給与が850万円から1000万円以上になるというのは、IT業界を目指す人たちにとって希望になるのではないでしょうか。例えば、メルカリ、任天堂、ディー・エヌ・エー、KADOKAWA、日本オラクル、教育向けソフトが順調なジャストシステム、SIerの野村総合研究所や電通国際情報サービスなど、主要な業種のトップ企業は、平均給与が850万円から1000万円レベルです」
ただ、例外もある。アフィリエイトとSEO/SEM系の平均年収は、上位3社でもアドウェイズが648万円、インタースペースが598万円、バリューコマースが581万円となっている。組み込み系の上位3社はACCESSが719万円、ユビキタスAIコーポレーションが718万円、セックが651万円。いずれも上場IT系企業のなかでは平均年収が顕著に低い。これだけの格差が生じている背景は何だろうか。新野氏はこう分析する。
「同じIT業界のなかでも、細かい業種ごとに業界構造の違いや景気の波の違いがあるためだと思います。例えばSIerやシステム開発における市場の好不調の波と、組み込み系市場やアフィリエイト市場の好不調の波は異なると考えられるので、業界ごとに好不調のタイミングと、それによる給与の上昇や下降が異なった動きをすることは十分にあり得ます。
多くの企業を潜在顧客とし数千万円からときに数億円の受注があるSIerと、比較的特定の企業を顧客とする組み込み系の市場、そして個人や小規模な企業の顧客が多いアフィリエイト市場では、市場の構造も異なります。それも平均給与の違いとして表れていると考えられます」