任天堂のゲーム機を不正操作できるようにする装置を製造・販売していた米国のハッカーグループの主要メンバーが、訴訟を経て総額1450万ドル、約19億円もの損害賠償を任天堂に支払うことになったと一部海外メディアで報じられ、注目されている。このグループはいったいどのような装置を販売していたのか、そして、なぜこれほど高額の損害賠償が認められたのか――。
各種海外メディアの報道をまとめると、ハッカーグループ・Team Xecuterが販売していた装置は、任天堂の「Nintendo Switch」「ニンテンドー3DS」のセキュリティーシステムを迂回して独自開発したOSを起動させることでゲーム機の不正利用を可能にするほか、海賊版ゲームを起動できるというもの。任天堂のゲーム機に加え、ソニーの「PlayStation」やマイクロソフトの「Xbox」のゲームの違法コピーも作成・販売するなどして、数千万ドルの利益を得ていたという。
これを受け任天堂は同グループの首謀者の一人、Gary Bowser氏に民事訴訟を起こし、2021年にBowser氏が任天堂に約1000万ドル(約13億円)を支払う条件で和解が成立。また、米国司法省は20年にBowser氏を起訴し、21年に同氏は司法取引に応じ、任天堂に個人で450万ドル(約6億円)を支払うことが決定。Bowser氏は総額で約19億円にのぼる損害賠償を任天堂に支払うことになった。
一部報道では、実刑判決を受けたBowser氏は司法取引によりすでに釈放され、多額の損害賠償を課した任天堂を批判しているという情報もみられるが、Bowser氏らが販売していた不正デバイスとは、どのようなものなのだろうか。ゲーム開発プログラマーでゲーム関連の編集者・ライターの岩崎啓眞氏はいう。
「簡略化していうと、任天堂のゲームソフトをコピーして海賊版をつくれるようにし、加えて、海賊版ソフトを起動できるようにするデバイス。このようなデバイスは古くはファミコンのディスクシステムの時代から存在し、ゲーム機メーカーとコピー業者の間では長きにわたり戦いが繰り広げられてきた。現在はオンラインでのプレイが増え、認証システムなどでチェックが厳しくなっているので、不正行為は難しくなってはいるものの、いまだにそうした行為でお金を稼いでいるグループは存在する」
ゲーム会社はどのような被害を被る可能性があるのか。
「かつて韓国で、ニンテンドーDSで不正にダウンロードコピーしたソフトをプレイすることができる『マジコン』が大人気となり、立ち上がりかけていた正規品の市場がつぶれてしまったことがあった。こうした事態になれば、ゲーム機メーカーが被る損害は計り知れない」
Bowser氏が任天堂に支払う損害賠償は総額19億円となるが、任天堂が被る被害を考慮すると、この金額は妥当といえるのか。
「あくまで個人的な感覚だが、19億円でも少ないというのが率直な感想。任天堂に限らず、ゲーム機メーカー各社は日々、OSのファームウェア更新など、不正コピー対策に多大な労力とコストをかけている。また、ソフトがコピーされれば内容が改造されてしまうため、対戦ゲームでチートプレイヤーが出てくるなんていうことも起こり得る。どれが『本来の正しい内容』なのかがわからなくなるので、ソフトの開発メーカーが被る被害も甚大なものとなるし、チート対策にかかるコストも大きい」
本件について当サイトは任天堂に見解を問い合わせ中だが、回答を入手次第、追記する。
(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲーム開発プログラマー)