「大学ファンド」の国際卓越研究大学には、これら10大学から選ばれる可能性が高い。世界から優秀な博士課程の学生を集め、世界トップレベルの研究者が集まる研究領域の創出・育成などの条件をクリアできそうなのは、旧帝大系の有力大学だからだ。科研費の採択件数で私大トップクラスの早慶も厳しい。日本で最も留学生数が多い早稲田大学でも、優秀な博士候補がどの程度いるか心許ない。可能性としては、医学部のある慶応義塾大学の方が、まだ望みはあるだろう。
このように、もともと大学の競争的資金の獲得の実績がある有力国立大に「大学ファンド」の資金が集中し、その結果、さらに大学間の格差は広がっていく。地方創生の主役と期待される地方国立大にとっては、大学間格差の固定化につながるので、特に反発は強いはずだ。
全国の国公立大と高等専門学校の教職員が加盟する全国大学高専教職員組合は、「大学ファンド」が支援対象を数校に限っていることについて「広い範囲の大学の支援のために活用すべきだ」と懸念を表明している。支援を受けた大学に事業収入の年間3%増を求める仕組みに対しても「稼げる研究領域への『選択と集中』を促進してしまう」と批判している。
その批判を意識してか、政府は「大学ファンド」の支援対象外だが、優れた研究を行っている地方大学などを集中支援する「総合振興パッケージ」も策定している。しかし、規模が小さければ、今までの競争的資金の亜流が生まれるだけだろう。
「大学ファンド」は科学技術振興機構に設置され、財政投融資を主な原資にしている。2022年度中に10兆円の基金の運用を始め、2024年度からは、その運用益(3000億円予定)を公募で選ばれた数校の国際卓越研究大学に配分する。そして、支援先は段階的に増やしていく計画になっている。
前述の全国大学高専教職員組合は、「大学ファンドが『打ち出の小槌』のように高収益を上げると期待するのは、他の基金の運用実績から見ても注意を要する」と警鐘を鳴らしている。また、選定された大学が年利3%の事業成長を求められることも「大学や社会にとって重要な研究領域の淘汰を促進する危険性を高める」と指摘した。
「大学ファンド」10兆円のうち、約9兆円を財政投融資の債券を発行して金融機関から借り入れる。その資金をもとにして、市場運用で3000億円の利益を出す計画のようだ。「大学ファンド」の3000億円を生み出すための運用利率は年利4%強となる。安倍政権時代からの実質ゼロ金利政策のもとで、果たしてその運用利率は達成可能なのか。未達成の場合は、税金で補てんするしかない。
また、研究者の集まりでもある大学に年利3%の事業収入増を求めるというのも、企業経営者が各事業部に達成目標を押し付けるようなものである。
本来の「学問」の意義や地域活性化などを真剣に考えれば、政府は世界でトップクラスの大学を「選択と集中」で生み出す大学政策でなく、息の長い多様な研究・教育活動をサポートすることが必要であろう。
(文=木村誠/大学教育ジャーナリスト)
●木村誠(きむら・まこと)
早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『「地方国立大学」の時代-2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)。他に『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。