不二家の親会社は、株式の54.1%を保有する山崎製パン。酒井氏は山崎製パンのCMに20年以上も出演しており、その縁もあったようだ。酒井氏は20年、「ペコちゃん70周年アンバサダー」に就いた。不二家のマスコットキャラクターであるペコちゃんは1950年に不二家洋菓子店の店頭を飾る人形としてデビューし、2020年に生誕70周年を迎えた。それを記念して酒井氏が「アンバサダー(通称=ペコトモ代表、ミキちゃん)」に就任した。そのときのつながりもあって社外取締役に白羽の矢が立った。
経営陣の監督強化を目指すコーポレートガバナンス改革を背景に、社外の優秀な女性の人材を取締役に迎える動きが広がっている。
ガバナンス助言会社プロネッドが昨年の株主総会後の7月1日時点で東証1部上場の約2170社を集計したところ、女性取締役は1354人。1年前に比べ22%増えた。なかでも社外の女性取締役が233人(26%)増加した。
10年前には100人に満たなかった女性の社外取締役が1000人を超えるのは初めて。企業が多様性を重視するのは投資家の圧力が強まっているためだ。米議決権行使助言会社グラスルイスは、女性取締役のいない会社のトップ選任に反対する方針を20年3月期決算企業から本格的に適用し始めた。
企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)が今春改定される。22年に東証1部を引き継ぐプライム市場に上場するには、独立社外取締役の比率を3分の1以上にする必要がある。20年時点では東証1部に上場する企業の41.3%が、この要件を満たしていない。こうした企業が社外取締役を追加選任する場合、今後1年で約1000人が新たに必要になるとの試算がある。
社外取締役の獲得競争が激化しているといわれて久しい。特に女性の社外取締役の担い手の不足は深刻だ。女性で社外取締役に起用される事例が多い職業はアナウンサー、アスリート、タレントである。
女性アナウンサーの起用が目立つ。NHKの『クローズアップ現代』で名を馳せた国谷裕子氏(64)は、17年6月から日本郵船の社外取締役を務めている。「キャスターとして長期にわたり、政治・経済・国際関係、社会等に係る問題を幅広く提起してきた経験と豊富な見識を活かし、多様な視点と高い独立性を持った立場により、当社の経営への助言や業務執行に対する適切な監督を行っていることから、引き続き社外取締役候補といたしました」。日本郵船は20年、国谷氏を再任する理由をこう説明した。
国谷氏は東京藝術大学理事(非常勤)、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授を兼職。日本郵船の取締役会出席率は93%(14回中13回)。株主総会での再任の賛成率は99.28%とほぼ満票の支持を得た。
20年、SBIホールディングスの社外取締役に、元TBSアナの竹内香苗氏(42)が就任した。元NHKの久保純子アナ(49)と入れ替わったもの。2代続けて女子アナを起用したことになる。元フジテレビの菊間千乃氏(49)はコーセーの社外取締役だ。
ひとりで複数社を掛け持ちしているケースもある。フリーキャスターの伊藤聡子氏は十六銀行と積水樹脂の社外取締役を兼務している。元NHKの福島敦子アナ(59)にいたっては、ヒューリック、カルビー、名古屋鉄道の3社。国立大学法人島根大学経営協議会委員、公益財団法人りそな未来財団理事でもある。福島氏は過密スケジュールにもかかわらず、ヒューリックの取締役会出席率は100%(15回中15回)、株主総会での賛成率は99.93%。カルビーの取締役会出席率は92%(13回中12回)、取締役再任の賛成率は99.9%。名古屋鉄道の取締役会出席は13回中11回。昨年は改選時期ではなかった。
今春、多くの企業で女性社外取締役が誕生するだろう。女性アナウンサーにはまたとないチャンス到来である。
(文=編集部)