慶應幼稚舎がペーパーテストより体操などを重視しているのは、福澤諭吉の「先ず獣身を成して後に人心を養え」という理念を大切にしているからだ。「獣身」とは健全な肉体という意味だが、だからといって、特別に鍛えたり体操教室に通ったりする必要はないという。また、行動観察テストでは慶應義塾の基本精神である「独立自尊」の観点を見られている。
「幼稚舎では、まわりの雰囲気に流されず、自分の考えをはっきりと言える子どもが受かりやすい。保護者としては、子どもを型にはめず、自由に元気よく、のびのび育てると、幼稚舎に合うタイプになると思いますね」(同)
では、慶應幼稚舎に子どもを合格させるために有効な試験対策はあるのだろうか。
「幼稚舎に限らず、小学校受験で合格を目指すには過去問対策に尽きます。なので、まずは慶應幼稚舎でどのような試験が行われているかを把握することが第一です。その上で、スピーディーかつ正確に解答するための練習をすることになります。幼児教室を選ぶときも、それに資する内容かどうかで判断するといいと思います。その対策は4歳くらい、つまり受験の1年半前からしっかりとやれば十分です」(同)
一部では「慶應幼稚舎に合格するためにはコネや多額の寄付金が必要」という噂も流れているが、これについて石井氏は否定する。
「この噂は、不合格になった保護者が『うちは寄付しなかったから』とか『コネがなかったから』と言い訳したことが広がっていったんだと思います。実際、合格者の約9割は寄付もしなければコネもないご家庭です。ただし、合格者の約1割は多額(10億円以上)の寄付金やコネによる合格者であることも事実です。このコネも、両親が慶應の卒業生という程度では通じません」(同)
「門閥制度は親の敵」と言った福澤諭吉の教えを守っているのか、意外にもコネやカネはそれほど重視されていないようだ。それを裏付けるかのように、普通のサラリーマン家庭の子どもが試しに受験したら受かってしまった、といった話も多いという。
恵まれた環境で6年間クラス替えもなく、子どもの個性を存分に伸ばしてくれる慶應幼稚舎。縁がないと思っていた保護者たちも、「だったら受けてみようか」と思うかもしれない。
「慶應幼稚舎ではのびのびと学べますが、中学校に進学するとペーパーテストで選抜された“外部”の学生たちが入ってくるため、幼稚舎出身者のなかには学力格差に悩まされ、落ちこぼれてしまうケースもあります」(同)
「慶應幼稚舎出身」がエリートとしての“肩書”になるか、ボンボン育ちという“レッテル”なってしまうのか。結局は、子ども自身の資質に懸かっているようだ。
(文=奥田壮/清談社)