宇宙のどこかに人間みたいな生命体がいる必然

銀河
宇宙の謎はまだ十分に解き明かされていません(写真:marotarou / PIXTA)
「生命とは何か」という根源的な問いに向き合い、生命理論「動的平衡」を唱える生物学者・福岡伸一さんが文学、芸術、建築、芸能、宇宙物理学など、さまざまな分野の第一人者と対談した『新版 動的平衡ダイアローグ: 9人の先駆者と織りなす「知の対話集」』。
 
このうち、宇宙物理学者の佐藤勝彦さんと『「知的生命体」が宇宙にいるのは必然か』をテーマに対談した様子を同書から一部を抜粋、再編集し、お届けします。
 

「それ」は地球の生命に似ているか

福岡 佐藤さんはご著書のなかで、地球外生命は存在するのかという問題を取り上げられておられますよね。この分野にとくに関心がおありなんですか。

佐藤 私自身がそうした研究を進めているわけではありませんが、「宇宙における生命」についての研究は、今後大きく発展していく新しい分野だと思っているんです。

天文学、生物学の境界領域であり、少数ではありますが、それぞれの分野の研究者がこの問題に取り組んでいます。幸い、私が機構長を務めている(対談当時)自然科学研究機構には、天文学と生物学、それぞれの研究所があります。

ですから、「宇宙における生命」の研究を応援し、強化していくことは、私たちの責務だとも思っているんです。

福岡 2010年にNASAの宇宙生物学研究所の研究グループが、「カリフォルニア州のモノ湖で、リンの代わりにヒ素を使って生命活動を行う細菌を発見した」と発表して、大きな話題になりましたよね。

リンは地球の生命体を構成する主要元素の1つですが、それを使わずに生きられる細菌がいるなら、リンのない天体にも生命が存在できることになる。

これが事実なら、今後の地球外生命の探索にも影響を与えるのでは、といわれました。

その後、この発表には信憑性を疑う批判が相次いで出たわけですけど、宇宙における生命を考える場合、地球の生命体のようなものを想定するのか、あるいは、まったく異なる生命形態も含めて探るのか、2つの道があると思います。そのあたりはどうお考えですか。

佐藤 そうですね。まず、いま自然科学研究機構の国立天文台が中心になって進めているのは、太陽系外の惑星、とくに水が液体で安定して存在できるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある惑星を探す研究なんです。

さらにそこから、それらの惑星を詳しく観測して、生命の有無を探っていくことになるでしょう。その際、初めはいま知られている唯一の生命体である地球型の生命を探すことになるはずです。

福岡 まずは、宇宙における生命体を、地球型生命体のバリエーションとして考えるわけですね。

佐藤 ええ。しかし、もちろん、それだけでは終わらない。私たちの知る地球の植物は太陽光を使って光合成を行っていますが、例えば、恒星にはいろんな種類の星があり、太陽より少し小さい星は太陽より温度が低く赤みを帯びています。

その周りを回る惑星には、地球の植物とは大きく異なるメカニズムで光合成を行う植物も存在するかもしれません。しだいにそういうところまで、探査の対象を広げていければと思っています。

宇宙はここ以外にも無限に存在する

佐藤 私自身は宇宙論の研究者なので、本当はいろいろな生命体を考えたいんです。事実、宇宙科学者は、これまでにさまざまな地球外生命を発想してきました。

たとえば、私たちのように化学反応ではなく、原子核反応によって生命活動を行うもの。有機物の代わりに、プラズマ状態にある無機物で構成される生命体。

フレッド・ホイルというイギリスの天文学者が1957年に発表した『暗黒星雲』というSF小説では、暗黒星雲そのものが知的生命体として描かれています。