配信ドラマが「超アンリアル」で支持を得る背景

Z世代向け配信ドラマといえば、トレンドの流れを作った作品の一つにアメリカ発HBO MAXの「ユーフォリア/EUPHORIA」がある。同作のクリエイター兼プロデューサーのロン・レシェム氏がスペインのドラマ祭「イベルセリエス」(2023年10月)のセッションに登壇した際、Z世代が求めるドラマについて端的に語っていた。

「ユニークさと多様な視点、ビジュアルで伝える哲学を持っていること。そして、自分のアイデンティティとは何かを確かめることができるものをZ世代は求めている」。またワーナー・ブラザース史上最大のヒット作となった映画『バービー』と共通する視点であることを強調していた。

コンテンツの価値を最大化する

世界のTVコンテンツ見本市の取材を続けているなかで思うことだが、ここにきてトレンドそのものが配信、地上波、そして映画とも境界線がなくなりつつあることを実感している。実際、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、Disney+の配信オリジナルドラマが地上波ドラマと分け隔てなく視聴されるようになり、違いは視聴環境や手段といったハード面に過ぎない。

日本の市場は定義づけにこだわる傾向があり、それ自体は否定しないが、海外ではビジネス目線に合わせて変化させていく考え方が常である。ドラマも映画もアニメも、そしてドキュメンタリーもクリエイティブで生み出されるIP(知的財産)コンテンツとして捉え、ストーリー産業全体を盛り上げていくことにシフトしている。

そのなかでメディアはコンテンツを届ける「出口」であり、稼ぐ手段であるというのが現在の世界の常識なのかもしれない。もちろん、視聴者にいかに届けるかが重要であり、コンテンツファーストの時代とも言える。それゆえに配信と地上波を差別化した考えは過去のものになりつつある。

MIPCOMカンヌ2023のワールドプレミア上映を飾った作品から見ると、具体的にそれがわかる。いずれも2024年に展開予定の作品だ。既存IPであるヒーローキャラクター「マスク・オブ・ゾロ」の新たなストーリーを開発したドラマ「Zorro」は、フランス大手メディアのMediawanグループ傘下のMediawan Rightsが企画し、Netflix作品を多く手がけるスペインの大手スタジオSecuoyaによる制作で、Amazonプライム・ビデオの新作ドラマシリーズとして全世界配信される。この座組みはまさにトレンドであり、「マスク・オブ・ゾロ」のリブート作品の価値を最大化するために作られているのだ。

また実験的なユートピアのコミュニティを舞台にAI監視社会を描くドラマ「Concordia」は、企画・制作をドイツの老舗配給会社ベータ・フィルムとドイツ公共放送傘下のZDFスタジオ(旧ZDFエンタープライズ)の2社が設立した新合弁会社インタグリオ・フィルムズが中心となって作り上げたものだ。

ZDFスタジオの国際共同制作ドラマ担当ヴァイスプレジデントのロバート・フランク氏らがMIPCOMカンヌ2023で登壇したセッションでは、各国のパートナー企業から計4000万ユーロ(約63億円)の資金を調達する計画を立て、実現させた経緯があることが明かされた。

そのパートナー企業の1社に日本テレビグループ傘下のHuluジャパンが含まれる。こうした座組みから、ドイツでは公共放送ZDFでの展開が見込まれ、日本ではHuluジャパンで独占配信されることが決定している。当然ながら世界展開も視野に入れている。

これもまたコンテンツの価値を最大化させることが目的にある。前出のフランク氏は「プロジェクトを立ち上げる段階で重要なことは、市場で求められるIPコンテンツを見きわめることにある。