際立つ「勇者ヨシヒコ」シリーズ俳優活躍の背景

ただ、その描き方には一ひねりも二ひねりも加えられている。何と言っても脚本・監督は、『今日から俺は!!』(日本テレビ系、2018年放送)など多くのコメディで知られる福田雄一である。一筋縄で行くはずがない。

たとえば、ドラクエ好きの心をくすぐるこんな場面があった。ヨシヒコたちが、見知らぬ民家に入っていく。なぜか縦一列に並んだ隊形だ。そして無言でその家のタンスを勝手に開けたり、ツボを割ったりする。住人は驚き、「人の家でなんてことするんだ」と怒り始める。

ドラクエをプレイしたことのあるひとならもうおわかりだろう。ドラクエの世界では、メダルやアイテムを手に入れるために他人の建物のなかに入り込んでまったく同じことをする。ただゲームのなかでは、その犯罪行為(?)を誰もとがめない。では、それを現実でやったら? というパロディである。

今でこそ登場人物がゲームの世界に入り込むという設定はよくあるが、当時はとても斬新だった。それまで似た設定がまったくなかったわけではないが、それをネタとして昇華させたところに独自のものがあった。

しかし、ドラクエには感動もある。とりわけ、長い旅を経てのラスボスとのバトルの場面などは最たるものだろう。

『勇者ヨシヒコ』シリーズも、その点はよく心得ている。途中の小さな闘いはモンスターがチープな張りぼてだったり紙芝居で済ましたりするなどネタに走るところもあるが、ラスボスとの闘いではCGを駆使し大物声優を起用するなど本格的な演出が施されていた。他の場面とのふり幅もあってワクワク感も生まれ、思わず感動してしまう。

『勇者ヨシヒコ』シリーズが、いまも私たちの心をとらえ続けているひとつの理由は、このようにゲームという共通体験を笑いながら感動もできるドラマにしてくれたパイオニア的存在だったところにあるに違いない。

楽しさを支えていた俳優たちの演技力

一方でその楽しさを支えていたのは、ドラマのコンセプトを理解したうえでの俳優たちの確かな演技力だった。『勇者ヨシヒコ』シリーズは、キャラクターとその掛け合いの面白さももうひとつの魅力だった。

まず主役の山田孝之のキャラクターが秀逸だった。勇者というヒーロー的役柄でありながら、天然ボケで突拍子もない行動に出たりもする。魔法にかかりやすく、効きすぎて大変なことになることも。最近では『どうする家康』の服部半蔵役でもそうだったが、シリアスに見えて実はクセの強い役を自分のものにするうまさはこの頃から変わらない。

ベテラン二枚目俳優の宅麻伸も負けていない。他のドラマではいまや渋い役柄を演じる重鎮だが、ダンジョーの場合は、漢気あふれる戦士ではあるものの美女を前にすると突然だらしなくなり、「俺は『たくましいんだ』」などと自分の名前に引っ掛けたおやじギャグで口説き始めるユーモアあふれる演技を見せてくれた。

突如空中に巨大な姿を現し、旅のお告げを伝える仏役の佐藤二朗も、このドラマで知名度を上げたひとりだろう。

仏のはずなのに、お告げの内容はかなり適当でヨシヒコたちにも信用されていない。それでもまったくめげる様子もなく早口かつアドリブでまくしたてるので、しまいにはウザがられてしまう。さらに不倫していたことがバレてしまうなど一見散々な役柄だが、逆にそこがクセになる部分もあって爪痕を残した。

そして夫婦漫才のような丁々発止の掛け合いを繰り広げたのが、ムロツヨシ演じるメレブと木南晴夏演じるムラサキである。

メレブが使う魔法は、相手の着ている服を臭くする「ナマガワー」などほとんどが戦闘の役に立たない。そしてその実験台にされることが多いのがムラサキである。彼女にとってはいい迷惑なので、メレブに対しては自然に当たりが強くなる。メレブも黙ってはおらず、なにかと口撃する。そこで掛け合いが生まれるわけである。