インボイス、今さら聞けない「2割特例」「8割控除」

つまり、3年間は消費税額1万円の8割の8000円は控除できるのだ。

ほかに一定の小規模事業者を対象に、当面6年間について税込1万円未満の取引であれば、全額仕入税額を控除することができるなどの措置がある。

税務に携わる筆者らが見ても、実務の現場は混乱している。

クライアントからはフリーランスとのインボイス対応について相談を受けることが増えているが、会社の考え方によってフリーランスへの対応もまちまちである。

本人の意思を尊重する会社もあれば、ぜひとも登録をお願いしたいと考える会社もある。また、消費税負担額を考慮して、双方が納得できる取引金額を設定することもある。

インボイス制度は煩雑である。国税庁のホームページにも特設サイトが開かれ、書店にもインボイス制度に関する書籍が多数並ぶ。

フリーランスと元請事業者がうまく付き合っていくためには、「インボイス登録は相互に不利益だ」と主張するだけではなく、煩雑とはいえ制度を理解することが大事だ。

インボイス制度のメリット・デメリット

繰り返すが、インボイスは登録制である。では、登録したほうがいいのか、しなくてもいいのか。難しい問題である。

1つ言えるのは、今まで消費税の納税をしてきた事業者は、インボイス登録をしたほうがよい、ということだ。問題は、今まで免税事業者であった事業者が登録するかどうかである。

この問題を考えるには、インボイス登録のメリットとデメリットをしっかり理解する必要がある。

まずメリットとしては、要件を満たす請求書や領収書(以下、インボイス)を発行できることである。

そもそもインボイスとは、インボイス登録番号や消費税率ごとの消費税額など、一定の事項を記載した請求書や領収書のことで、インボイスを発行した事業者は、その取引先が仕入税額を控除できるため、取引の継続につながる。

一方、デメリットは、インボイスを作成しなければならないこと。登録すると付与されるインボイス登録番号を請求書に記載したり、税率ごとに区分した消費税額を記載したりと、請求書の記載事項をインボイス要件に満たすよう変更しなければならない。これには事務的な手間がかかる。

続いて、インボイス登録を“しない”メリットはどうだろうか。一番は消費税の納税をしなくていいことである。デメリットは、発注元から消費税相当額の値下げを求められたり、同一スキル、同一業務を行う登録事業者に仕事を持っていかれたりする可能性が出てくることだ。

インボイスを登録した事業者からは、「消費税分を上乗せして請求しないと、消費税を納税できない」という話も聞く。確かにその通りであるが、請求書を受け取った事業者は、消費税分が上乗せされた経費の支払いに抵抗を感じるだろう。

ただ、消費税分を上乗せされた経費を支払っても、その消費税分は前述したように仕入税額が控除されるので、申告時の納税額を減らすことで精算される。そのため、まったく損をするわけでもない。

ところで、先ほどインボイス登録をする場合のデメリットとして、事務的な手間を挙げた。実際、インボイス制度により会社の経理業務は逼迫している。その経理業務の1つに経費精算で回収する領収書の処理がある。

この経費精算について、“飲食店の領収書”に関する例をお伝えする。

社長:会社の新入社員歓迎会で飲食代を立て替えて領収書をもってきたのですが、登録番号の記載がなく、インボイスではなさそうなので経費にならないですよね?

税理士:経費にはなります。ただ、インボイスでない場合、消費税の控除が減って会社の消費税の納税額が少し増えます。

社長:経費にはできるけれど、インボイスでないと消費税の納税額が増えてしまうのか。それはつらいね。

税理士:これくらいなら消費税もそこまで大きくないですが、大量になると塵も積もれば山となります。