運営責任者の土岐一利広報宣伝室長は「もとは企業宣伝の目的で始めたイベント。チッタというとがった企業のエンタメの在り方を若者に伝えたくて始めたが、市民権を得たことで企画も丸くならざるを得ない。潮時でした」と振り返った。一民間団体が仕切る範疇を超えたともいえるだろう。
一方で池袋のハロウィンは比較的しっかりした組織化を進めて発展しつつあるように見える。主催の池袋ハロウィンコスプレフェス実行委員会に、動画配信大手のドワンゴやアニメイト、コスプレイベントなどを開催するハコスタが参画し、豊島区や豊島区商店街連合会、サンシャインシティが共催、東京商工会議所豊島支部豊島区観光協会などが後援する。キャノンマーケテイングジャパンやサロンパスがスポンサーになり、池袋インバウンド推進協力会 / 一般社団法人Hareza池袋エリアマネジメントが協力をしている。
アニメの聖地・池袋を舞台としたコスプレイヤー・カメラマンが参加するイベントで、ステージ企画やパレード、展示ブースなどを展開する。2024年は3日で過去最大の16万1000人が来場し、親子連れや海外からも多数参加した。今後の展開に注目したい。
渋谷ハロウィンのマネジメント上の課題は、自然に広域で発生したゆえに多様なステークホルダーが存在し、そのマネジメントが難しいという点であった。実は地域のステークホルダーマネジメントの難しさはどの地域にもみられる。
これまで日本ではステークホルダーマネジメントが形式化されてこなかったが、今後はその巧拙が地域活性化を左右するであろう。ステークホルダーマネジメントの主なプロセスは下記のようになる:
? ステークホルダーの特定:イベントに関連する全ての利害関係者(ステークホルダー)をリストアップする。一般的なステークホルダーには、主催者や運営スタッフ、参加者(観客・出席者)、スポンサーやパートナー企業、イベントが行われる地域やコミュニティの住民や関連団体、イベント開催に必要な許可を出す政府機関や規制当局。
? ステークホルダーの期待とニーズの把握:各ステークホルダーがイベントに期待すること、特に求めている利益や成果を理解する必要がある。例えば、参加者はイベントで有意義な体験を求め、スポンサーはブランド露出やリターンを期待、地元のコミュニティは経済効果や地域の発展を望むのか、静かな環境を望むのか。
? ステークホルダーのベネフィットデザイン:各ステークホルダーにどのようなプラス(便益)とマイナス(負荷)を提示するかを設計する。すべてのステークホルダーに同時に便益を提供することは難しいので、その順番をつけてもよい。
? コミュニケーションとエンゲージメントの計画:各ステークホルダーとどのようにコミュニケーションを取り調整するかを計画する。例えば、メールや会議などを通じてステークホルダーにイベントの進捗状況や計画を定期的に情報共有する。特に重要なステークホルダーには、特別な関係構築のための活動を行う。
? 評価とフィードバックの収集:イベント終了後にステークホルダーからフィードバックを収集し、その意見を基にどのように改善するかをまたコミュニケートする。
24年の渋谷ハロウィンは公式イベントとしては休止状態だったが、多くの訪日外国人、観光客が集まり、渋谷の観光ポテンシャルを再確認させた。ステークホルダーマネジメントは必ずしも渋谷区が主体にならなくてもよい。渋谷区や東京都などの行政機関が渋谷ハロウィンを池袋のようにすべてイベント化すると、これまでのいい意味での渋谷ハロウィンのカオスさが消えてしまうリスクもある。
渋谷ハロウィンを再構築したいと強く思う人や一企業が、非公式なリーダーシップを発揮して上記のステークホルダーマネジメントを行って開始するのも一つのアプローチである。その際には川崎の例から学んで、パブリックセクターもうまく巻き込みつつ、持続的な運営の仕組みへと発展させる必要もあるだろう。
渋谷ハロウィンを持続的な観光資源とするには適切なブランディングが必要であり、リアルとオンラインの両方を活用しどのような人に来てほしいか(どのような人には来てほしくないか)を明確にコミュニケーションし、来訪者のコントロールを意識する必要があるだろう。
(本稿の執筆では英国・ウエストミンスター大学院の池上剣太郎氏の協力をいただいたことを感謝する。)