〈視点〉イーロン・マスクはなぜ、モディ首相と会談するのか?インドがテスラの投資によって得るものとは?

2024.04.22 Wedge ONLINE

 イーロン・マスク氏といえば、世界をリードする起業家である。電気自動車メーカーであるテスラの最高経営責任者だ。そのマスク氏が、インドのナレンドラ・モディ首相と会うことが決まった。時期は4月から延期となったものの、インドを訪れ、インドへの大型投資を発表する模様だ。

イーロン・マスク(左)とモディ氏は2023年6月にニューヨークで会談していた。テスラのインドへの投資は実現するのか??(Anadolu / gettyimages)

マスクの「地政学」を取り入れた経営戦略

 一般的には、この話はビジネスの案件だ。経済の専門家が語るべき話だろう。しかし、最近の国際情勢が、経済をリードするマスク氏にも、安全保障への関心を高めさせているようにも見える。

 例えば、マスク氏率いるテスラは、中国への投資を発表する一方で、中国に対抗する投資にも積極的に取り組んでいる。中国へのサプライチェーンの依存が懸念され、近年、中国以外の各国で開発が始まっているレアメタル事業、例えばインドネシアのニッケル製品関連事業にテスラは投資し、購入している。今回のインドへの投資も、中国での事業が安全保障上の理由で阻害された際に役立つかもしれない。

 中国市場で損をしても、インド市場で得をすれば、損失を穴埋めできるかもしれないからだ。つまり、今、投資に求められている重要な要素は、安全保障上、または「地政学的リスク」とよばれるリスクを最小限にする、多角化した投資なのかもしれない。

 一方で、マスク氏は、地政学的なリスクをチャンスに変えた実績を持つ。マスク氏は、SpaceX社の創設者でもあり、ロシアがウクライナに侵攻した際には、「スターリンク」と呼ばれる通信端末を配り、その有用性を世界に示した。最初は無料で、販売促進効果を上げた後、途中から料金を請求するあたりも、商人としての顔なのだろう。

 さて、そのようなマスク氏と会うモディ首相の思惑は何だろうか。モディ首相にとっても安全保障は重要で、マスク氏との会談は、それに貢献する側面がある。

武装蜂起を抑えるための外資誘致

 モディ首相がマスク氏と会う際に、安全保障はどうかかわるといえるだろうか。軍に「スターリンク」を導入する話だろうか。

 インドの安全保障を考える際、忘れてはいけないのは、インドの安全保障は、単に軍事だけではない側面だ。例えば、インドは、中国とパキスタンを念頭に安全保障を考える。しかし、中国とパキスタンは、単に軍隊で国境を侵犯するだけではない。

 インドが民族的に多様で、貧富の格差もあり、社会に不満があることを利用しようとする。現在でもインドでは、貧しい人々を中心に毛沢東主義派を結成し、武装蜂起が続いている。

 1967年に、武装蜂起が始まった時、中国共産党の機関紙『人民日報』は、「インドのとどろく春雷」として毛沢東主義派の武装蜂起を宣伝し、政治的に支援しただけでなく、物理的にも武器などを提供してきた疑いがある。インド北東部でも、多くの武装組織が結成され、独立武装闘争が行われてきた。

 その多くは和解、鎮圧、犯罪組織化し、今では、沈静化しつつあるが、これも、中国国内に拠点を持ち、中国が武器を提供して来た組織とみられている。このような中国によるインド国内に対するテロ支援は、1980年代にインドの外相が訪中した際、中国側が「それは過去のものになる」と発言し、終わったものとみられていた。

 それ以降インド政府も、中国をテロ支援で非難しなくなった。しかし、現在でも、武装勢力から、中国製の武器が多数みつかっている状態だ。

 パキスタンも同じようなことをしてきた。通常戦力で劣るパキスタンは、インドに小さな傷をたくさんつける戦略、テロ支援による「千の傷戦略」によって、インドの国力を削ぐことを狙ってきた。だから、パンジャブ州のシーク教徒の武装蜂起や、カシミールのインド管理地域での武装蜂起では、パキスタンの公然たる支援が問題だった。