任せ上手なリーダーを観察していると、実は1人称の動機付けがうまいことに気付きます。
部下の「利己的な欲求」を巧みに引き出し、ワクワクさせ、仕事にのめり込ませます。
・この仕事を覚えたら、将来稼げるようになるぞ。
・この能力があったら、早く出世して手取りが〇〇円になるぞ。
・こんな人になったら異性にモテて、いい嫁さん(旦那さん)ができるぞ。
このように、部下の利己的な欲求にダイレクトにアプローチして「マジですか!」と興味を引きます。
利己的な欲求というのは、見る人によっては、「卑(いや)しい」「下世話」「俗っぽい」と思う人もいるかもしれませんが、実際世の中の雑誌や書籍を見ても、1人称にアプローチしたキャッチフレーズばかりです。
「どうすれば(顧客に)喜ばれるか」「どうすれば(仲間に)貢献できるか」といった2人称の表現は稀です。「どうすれば(自分が)稼げるか」「どうすれば(自分が)評価されるか」といった1人称の表現でないと売れないのではと思うほどです。
1人称はそれほどに強い欲求で、任せ上手な上司はこの欲求を巧みに使っているのです。
そして、この後が重要です。
1人称で興味付けされて仕事に取り組むと、実際に顧客に喜ばれたり、仲間から喜ばれる瞬間があります。
そのときに、2人称の喜びを、充分に味わえるように仕掛けるのです。
・お客さんからあんなふうに喜んでもらって嬉しいな!
・〇〇さんが君のことをすごく評価していたよ。頑張った甲斐があったな!
といった言葉をかけ、2人称の「相手に貢献する喜び」を味わうと、抜けられなくなるほど仕事が面白くなります。
この喜びは、1人称だけのときとは比べ物にならないパワーがあります。自分のためだと思って始めた仕事が、こんなにも顧客に喜ばれ、仲間に喜んでもらえる、そのことを味わうと、人は仕事の面白さにハマッていくのです。
重要なのは、1人称と2人称が「両立」していることです。
これはビジネスマンにとって非常に重要なことですが、本当に稼ぎたいと思えば、「他人を稼がせることができる人」になることです。
営業マンなら、お客様の利益を上げられる人は相当な売り上げを叩き出すでしょう。上司が部下を稼げる人材に育てられるなら、その上司はもっと稼げるようになります。なぜなら、上司1人が稼ぐよりも、複数人の稼げる部下を作れる上司の方が会社に利益をもたらすからです。会社を儲けさせることができる人は、会社から重宝され、出世し、給料が上がるというわけです。
そして、3人称ですが、「世の中のためになる」ということを実感できるようになると、自分の仕事に誇りを持ち、自信を持ってのめり込むことができます。「私たちの仕事はこんなことで世の中に貢献しているんだ」と社会的価値に気付かせてあげることで、徐々に3人称の目線が育ってきます。
要は、「仕事」と「3つの動機づけ欲求」を結び付けてあげればいいわけです。
今の60代以上の世代の人は、1人称からアプローチせずとも、いきなり3人称で動機付けしても響いた世代なのではないでしょうか。「世の中に貢献する会社になろう!」という呼びかけで胸が震えた人たちが多かったように思います。
しかし、30代~40代の世代だと、いきなり3人称で動機づけされてもいま一つピンとこないのではないでしょうか。
30代~40代の世代は、2人称の動機付けで響くことができる人たちだと思います。お客様のため、仲間のためということで燃えることができます。しかし、今の10代20代は、いきなり2人称でアプローチされても全く響きません。
「それって自分に関係がありますか?」と驚くほどピンとこないのです。よく、若い世代を「ドライだ」ということがありますが、ドライとかウェットの話ではなく、動機付け欲求がズレているだけのことです。
これは、30代40代がいきなり3人称で響かないのと同じような感覚で、10代20代は、2人称の動機付けが心に届かないのです。
今どきの部下を動機付けするには、1人称から入って2人称につなげ、3人称にまで結び付ける流れが必要ですが、現場では、2人称のアプローチになっていることがほとんどです。
ここが、ズレが起こるポイントです。
仕事の魅力を伝える際、「お客様にとっての価値」「会社にとっての価値」の2人称でアプローチしていませんか?
この動機づけ欲求のズレをなくし、1人称からアプローチすることで、あなたの部下は、自分にとっての仕事の価値を見直し、2人称の欲求にハマり込み、3人称の欲求に広がって行きます。
1人称、2人称、3人称の欲求が仕事と結びついた部下は、主体的に仕事に取組み、成果を出すようになります。そのような部下を育てあげたあなたは、部下からも尊敬され、会社からも評価され、仕事の喜びを味わえる上司へと成長するでしょう。
次回に続く