ではここで、具体的な褒め方をお伝えします。
たった2つの技術を理解すれば十分です。
コツをつかめば非常に簡単なので、ぜひやってみてください。
褒める技術①:「I(アイ)メッセージで褒める」
「Iメッセージ」とは、「私は」という主語で始まるメッセージのことです。
・(私は)嬉しいよ。
・(私は)それでいいと思う。
というように、主語が(私は)となるようなメッセージを使います。
褒める技術②:「ストレッチゴール(次の目標)」
ストレッチゴールとは、「次のゴールを提示してあげること」です。
・ここはよくできているね。次はこうしてみよう。
・ここまではうまくいっているから、次はここまで挑戦してみようか。
というように、部下のよい行動を褒めた後、よくない行動に対して次のゴールを提示して「仕事の基準を高める」技術です。
この2つの技術は、理屈で理解するよりも実際に体感して学ぶ方が早いので、以下の2つのケーススタディを使って実際に場面をイメージして取り組んでみてください。
【ケース①】
あなたの部下Aさんが、以下のように言ってきました。あなたはどう褒めますか?
「〇〇さん、見てくださいよ、このチラシ。普通は2時間くらいで作るやつ、8時間かけて作りました!」(チラシの質は2時間で作ったものと大差ない)。
さあ、あなたならどう褒めますか?
非常に褒めにくい事例ではないでしょうか。同じクオリティで通常2時間の業務が8時間になったなら、単に生産性が低くなっただけです。「4倍も時間を使って何の意味があるんだ。生産性を考えろ!」と叱責する人もいそうです。
これを褒めろ、となると、難しいですよね。
逆に、何も考えずに褒めようとすると「そうか、よくやったな! 8時間もかけてくれたのか、すごいな」と言ってしまいそうです。
しかし、それでいいのでしょうか?
褒める目的は、「部下のよい行動を習慣化する(させる)こと」です。
通常2時間で終わる仕事を8時間かけたのは「よくない行動」ですから、それを「よくやった」と褒めてしまうと、部下は「8時間かけたのはよい行動なんだ」と認識してしまいます。
「習慣化してほしいよい行動」のみを褒める必要があります。
模範解答は以下のようになります。
「Aさんがこうやっていいものを作ろうとしたことは、(私は)嬉しいよ(Iメッセージ)。できあがったチラシも(私は)いい出来だと思う(Iメッセージ)。次は生産性を高めて2時間でできるようにしてみようか(ストレッチゴール)」
こうすることで、よい行動(①いいものを作ろうとしたこと②チラシの出来)のみを褒め、よくない行動(8時間かけたこと、生産性を考えずに仕事をしたこと)は褒めずにストレッチゴールにつなげます。
すると部下は、褒められた点だけを習慣化するようになります。
ムダに叱責をする必要もありませんし、大げさに褒めちぎる要素もありません。
照れ臭さもなければ、逆効果もない。
これが、「正しく褒める」ということです。
【ケース②】
あなたの部下Bさんが以下のように言ってきました。あなたはどう褒めますか?
「〇〇さん、うちのメンバー、遅刻が多すぎませんか? 私はもう嫌です。何とかしてください!」
この場面、Bさんはあなたに文句を言ってきています。メンバーの遅刻が多いのは、上司であるあなたの責任であり、何とかしてくれと訴えています。
通常であれば、褒める場面だとは思わないでしょう。しかし、これは褒めるべき場面なのです。
部下に習慣化してほしい行動があった場合は、全てが褒める場面です。
このケースにおいて「習慣化してほしいよい行動」はどこでしょうか?
模範解答を見てみましょう。
「メンバーの遅刻については、ぼくも問題だと思っていたんだ。遅刻について問題意識を高くもってくれていて、(私は)嬉しいよ(Iメッセージ)。Bさんはいつも時間通りに来てくれているね。時間通りにくるのは当たり前だと考えていると思うけど、とてもありがたいよ(Iメッセージ)。どうしたらメンバーの遅刻が減るか、一緒に考えてくれないか?(ストレッチゴール)」
このように、部下からクレームがつけられたような場面でも、習慣化してほしい「よい行動」は潜んでいるのです。
一見すると褒める場面ではないところ、日常の部下とのやり取りの中に、実は「褒めポイント」はたくさんあります。
褒める目的は「部下のよい行動を習慣化する」ことだと理解し、「習慣化してほしいよい行動」が見抜けるようになると、そこをピンポイントで褒められるようになります。
すると、あなたが習慣化してほしいと思う行動だけを繰り返してくれるようになります。
「正しい褒め方」で「褒め上手」になれば、部下は任された仕事に自信を持って取り組むようになり、さらに任せられる仕事が増えます。
これを機に、どんどん部下を褒めて伸ばしていきましょう。
次回に続く