メンバーからショッキングな指摘を受けたHさんですが、ここから自分が変わらなければだめだと思い立ちます。まずやったことは、自分の考えを先に言うのではなく、とにかくメンバーからの話を「先に聞く」ということでした。Hさん自身、正直言って何をどうすればよいのかわからない気持ちがあり、「どうせわからないのだから、知ったかぶりをせずに頼ってしまおう」と割り切って考えることにしたのです。
こうやってHさんが自分の考え方を変えたことで、リーダーとしての振る舞いも変わっていきます。「まず聞く」ということは、メンバーにはそれが謙虚な姿勢に映り、相談されているように感じます。そうなると、メンバーは自分なりの視点で、よりよい仕事のしかたや前向きな意見を述べ始め、Hさんはその意見をチーム運営に活かすようになりました。もちろんメンバーの言いなりではなく、リーダーとして通すべき筋は通しますが、お互いに意見を交わすようになったことで、Hさんのチーム内での信頼度は増していきました。そして、Hさんがメンバーの意見から学んだこともたくさんありました。
Hさんはメンバーから指摘されたことをきっかけにして、あらためて「以前のリーダーを反面教師とするところは何なのか」「それを解消するにはどう行動するのか」を具体的に意識し直し、それをメンバーと一緒に実行したのです。
このように、自分がメンバーの立場でいるうちは、リーダーのことをなんだかんだと批判したくなることがありますが、その人がリーダーの立場になった時、自分の経験の中の引き出しが少ないことで、知らないうちに同じやり方をしていることは意外に多いものです。学んだノウハウがそれしかなければ、結局は同じことしかできません。また、そのことに対して無意識であればあるほど、リーダー自身がそれに気づくことができないのです。
さらに、このような仕事の進め方やチーム運営に関わるようなことは、日本の企業文化の中で世代を超えて脈々とつながっていることが多いものです。これは、昔ながらの上下関係が厳しい部活動などで、いじめられていた新入生が上級生になったとたんに、同じように下級生をいじめだす構図と似ています。よくも悪くも、それが当たり前の文化として根づいてしまっているのです。
それを防ぐには、まず「自分は自分が悪く思っていた人と同じ行動をしがちだ」ということをきちんと「意識をすること」しかありません。そして、メンバーや他のチームリーダーなど、周りから話を聞いたり指摘を受けることで、自分の行動を「客観視」することが大切なのです。そのうえで、「具体的な代替手段を考えること」「他の方法を学ぶこと」が必要になります。自分の引き出しを増やすには、「ロールモデルとなる人を増やす」「書籍や他社事例から学ぶ」といったことを考え、実践しなければなりません。
自ら成長できるリーダーは、自分が経験してきたことを「意識」して、活かすべきこととそうでないことを整理し、周りの目を使って自分を客観視し、次にとるべき行動は何かを考えています。自分が直接経験できることだけでは限度があり、無意識の流れに任せているだけでは、自分の引き出しは増やせません。自分の行動に「意識」をもつことは、成長するリーダーにとって不可欠な取り組みです。まずはリーダーとして、無意識だったことを「意識」することから始めてみましょう。
次回に続く