このようにAさんとBさんは、チームの運営方法やリーダーシップの取り方、メンバーとの接し方や自身の性格、考え方など、それぞれ正反対といってもいいほど違っていますが、どちらのチームもメンバーはリーダーを信頼し、安心して仕事をしています。チーム内でお互いに配慮や気づかいがあり、遠慮なく話ができ、自分を受け入れてもらえるということは、まさに「心理的安全性」が高いチームといえます。
また、こんな正反対に見えるチームでも、それぞれのリーダーには共通していることがあります。私が気づいたことは三つです。
まず一つ目は「最後の責任はリーダーが取る」ということです。
どちらのリーダーも、仕事上で起こることをメンバーの責任にはしません。ミスが起こらないように常に見守る、ミスが起こったら確実にフォローするなど、やり方は少し違いますが、必ずメンバーと一緒に仕事に取り組み、最後の責任はリーダーである自分がとるという態度が明らかです。
二つ目には「メンバー個人を決して責めない」ということがあります。
Aさんの場合は、責めるようなことが起こらないように、日常のマネジメントを細かくやっているといますし、Bさんの場合は、いざとなったら自分がすべてリカバリーできるという考えのもとで、日々の仕事を進めています。そしてどちらのリーダーも、仕事のミスやトラブルはメンバーのせいではなく、自分の責任だと思っています。だからメンバーたちを責めません。
もし仮にミスを責めたとすると、メンバーたちは当然「次はそうなりたくない」と考えます。責められないように、何とか自分でミスやトラブルを解決しようとし、その結果発覚が遅れ、問題は一層大きくなります。メンバーはさらに強く責任を感じ、心理的にどんどん追い込まれていきます。「心理的安全性」からはかけ離れた状況です。
仕事上のミスやトラブルがあった時、そのことを責めても責めなくても、かかわったメンバーは責任を感じています。メンバーを責めて心理的に追い込むよりは、責めることなく一緒に解決策を考えた方が得策でしょう。
最後の三つ目は「本当の意味での厳しさがある」ということです。
例えばAさんに対しては、世話を焼きすぎ、構いすぎで甘いと思う人がいるかもしれません。しかしAさんは必ず自分のリーダーシップで物事を決め、仕事の進め方を決めています。当然目標が定められ、メンバーたちはそれに基づいて仕事をすることが求められるでしょう。途中経過もその都度確認されていくわけですから、仕事の進め方としては厳しいものだといえます。
これはBさんの場合も同じで、一見放任で自由なように思うかもしれませんが、各自に仕事のやり方が任されるということは、当然それに対する結果が求められます。各メンバーの責任がそれだけ重いということになります。もしサボっていればBさんにはその状況がお見通しでしょうし、自分が責任を負って仕事を進めなければならないということは、やはり厳しいものです。
厳しさというと、ついつい言葉のニュアンスのキツさや人当たりの厳しさと勘違いしてしまいますが、本当の厳しさというのは、「要求するレベルの厳しさ」です。これがどちらのチームにも共通しています。厳しさを求めたうえで、メンバーの仕事をしっかり支援しています。
このように、成功するチームのリーダーは共通して「心理的安全性」が高いチームを作っており、メンバーの中に常に安心感があります。これは決して甘やかしではなく、成果をあげるチーム作りのために必要なことです。また、そのためのリーダーのスタイルに、決まった形はありません。性格や得意分野などによってさまざまですが、その一方で共通してやるべきことがあります。
ここでは3つの項目を挙げましたが、最も大きなことは、リーダー自身が人として、メンバー全員から「いかに信頼されるか」ということです。これは「約束を守る」「嘘をつかない」「相手を傷つけない」など、まずは人として当たり前の振る舞いをし、リーダー自らも本音を語り、メンバーたちを信頼するということです。チームの「安心感」は、こうした中から生まれていきます。
これからのチーム作りは、ただうわべの厳しさを押しつけるのではなく、メンバーが自主的に責任を果たそうと意識できる環境づくりが重要です。そのためにも、「メンバーの安心感」に注目した取り組みを心掛けてみてください。
次回に続く