リーダーの役割は、「その仕事を成功させること」「結果を出すこと」であることは間違いありません。そして、その結果を得るために「組織、チームとしての能力を最大限に発揮させる」という役割もあります。つまり、チームのメンバーにはそれぞれの特徴があり、それに見合った適材適所の施策を実践することが重要になります。
肝心なのは、それがリーダーという立場であっても同じだということです。苦手なことや不得手なこと、うまくできないことは、他の人に任せるのが最善の選択と考えるべきでしょう。「苦手なことは苦手だ」とはっきり伝えなければなりませんし、あえて弱みをさらけ出すことで、逆にいい結果が出ることも往々にしてあるのです。
私は以前こんな経験をしました。ある仕事がらみの儀礼的な会合に誘われており、それは特に人脈が得られるわけではなく、いい情報が得られる訳でもなく、ただ時間の無駄という気がして、あまり気乗りがしない会合でした。そして案の定、その会合での成果は思わしい結果ではありませんでした。自分としては、会合自体が苦手だったのは否めません。
そんなある日、たまたま雑談の中で会合の話題になり、「自分はあまり会合の場が得意ではない」ことを部下に話しました。するとその部下が、「実は自分も今ちょうど出張予定と会合が重なっていて、出張にはマネージャーが行った方が話はスムーズなので、よければ行ってもらえませんか」と私に依頼しようとしていたと言うのです。そんな彼と話し合った結果、私のジャッジは彼に会合を優先してもらうことにし、私が彼の代わりに出張することにして丸く収まりました。
そもそもマネージャーのくせに「会合に行きたくない」などと言い出すのは、ただのわがままのようなもので、模範となる行動かどうかは疑問です。しかし、こうやって自分の苦手なことや弱みをはっきりメンバーに伝えると、意外に部下からサポートしてもらえるものです。当然それには、日頃の部下とのコミュニケーションや信頼関係の構築が大前提となりますが、得意でないことに対して責任感だけを優先させるよりも、リーダーはやはり自分を含めて適材適所な人材活用をするもの仕事であり、本当にできるリーダーはこれを日々実践しているのです。
リーダーとしての責任感は非常に大切なことですが、そればかりを優先させると、「自分でやらなければならない」「人には任せられない」「リーダーがやるべき」など、何もかも自分で背負ってしまう状況に陥ります。さらに「弱みは見せられない」「苦手とは言えない」など、自身のプライドまでかかわってくると、重圧はさらに加速します。これでは自分を含めた組織、チームとして、全員の能力を最大限に発揮させているとはいえません。
成功しているリーダーは、実は自分の苦手なことはしません。あえて弱みをさらけ出し、まわりのメンバーに協力を求めることで、チーム全体がメンバーの不得手な部分を補い合う空気が生まれるのです。この空気を作る力こそが、成功しているリーダーに共通する能力なのです。形式的な「あるべき姿」ではなく、適材適所で現実的な役割を考える。そこで自分の苦手なことがあれば、それははっきり苦手だと部下に伝える。そして、その仕事は自分よりも得意な他のメンバーに任せる。こういうサイクルをチーム内に作ることができれば、メンバー全員が本音で話し合い、チーム全体の結束力も高まるのです。
メンバーと本音で話し合える人間関係を作るためには、まずリーダーが本音を語らなければなりません。つまり、自分の弱みを素直に伝えられるリーダーこそ、実は優れたリーダーなのです。
次回に続く