はじめまして、ユニティ・サポートの小笠原隆夫です。これから1年間『リーダーは「空気」をつくれ!』というタイトルにて、連載をさせていただきます。組織におけるリーダーシップのあり方、組織を円滑にするための「空気」のつくり方について、長年の人事コンサルとの経験をもとに、私が実際に直面した状況を例として、解説していきます。
第1回目は、「仕事は素晴らしくできるけれど空気作りを誤るリーダーと、反対に仕事は部下任せなのになぜか雰囲気作りが上手なリーダーの違い」についてお話ししてみたいと思います。
あるサービス業の会社の事例を紹介します。仕事自体はとても忙しく、勤務時間も長くなりがちな、どちらかというと不人気業種といわれる業界の会社です。この会社のある部門に、立派な人格だと評判のリーダーがいました。いろいろな人に話を聞くと、それぞれ「誰よりも率先して働く」「指示も的確で仕事ができる」「口先だけでなく行動が伴っている」などと、みんなが口をそろえて褒めます。
実際に現場を見ていても、社員の誰よりも早く出社して、掃除などの雑用も他人に押し付けずに一緒にやり、メンバーたちにはよく声をかけ、よく人を褒めています。社外のコミュニティにいくつも参加しており、そこでもさまざまな役職を担っています。物腰が柔らかく、品があって、みんなに尊敬されるのがよくわかる人で、社員の中には「このリーダーのもとで働きたい!」という希望も多かったようです。しかし、このリーダーの率いるチームには、一つ問題がありました。それは、「メンタルダウン」を起こしてしまうメンバーがとても多いのです。
業界的にも多忙で大変な仕事ということはありますが、理由を調べていく中で、このリーダーの行動に原因がありました。例えば、仕事に行き詰まっていたり、つらそうだったりするメンバーがいると、このリーダーは、「君ならできる。僕だってやって来られたのだから!」「大丈夫、チャレンジしてみよう!」「僕もサポートするから頑張って見よう!」などといって励まします。
リーダー自身は相当な努力をしており、率先して行動もしています。人柄も申し分のない立派な人です。よくありがちな「自分のことは棚に上げて」「口先だけで」という人ではありません。しかし、そんなリーダーから直接励まされれば、「いいえ、無理です」「つらいです」「できません」などと言える人は、なかなかいないでしょう。
ここで起こっていたのは、リーダーが優れた非の打ちどころがない人だったことで、周りのメンバーもそれに合わせざるを得ない、要は「無理を強いられる」という環境になっていたということです。自分はつらくてどうしようもないが、それよりもっと大変そうに見え、なおかつそれをこなしているリーダーがいることで「自分も我慢するしかない」と思ってしまうのです。
こうした状態が続くと、メンバーの心や体は悲鳴を上げてしまい「メンタルダウン」が続出してしまいます。いくら非の打ちどころのないリーダーでも、「自分ができるからみんなもできる」という考えは非常に危険なのです。
逆にこんなケースもありました。決して優れているとはいえない、ある専門技術系の会社にいたリーダーです。こういう会社のリーダーは、だいたい社内でトップクラスの技術者であったり、現場からの叩き上げであったり、とにかく現場の技術に詳しい人が多いものです。しかしこのリーダーは、細かな技術的な実務が非常に苦手な人でした。
私のこれまでの経験では、こういうリーダーは、メンバーから「仕事ができない人」と見られてしまい、見下されてメンバーが指示通りに動かなかったり、指示を聞き流されてしまったりします。
しかし、このリーダーは、なぜかメンバーたちからはとても好かれ、信頼されていました。様子を見ていてわかったのは、このリーダーはとにかくメンバーたちとコミュニケーションをたくさん取っているということでした。話の中身は「今はどんな状況?」「いつもご苦労様」「大変そうだね」「問題があったら言ってきて」など、どちらかといえば単なる声掛けに近い内容ですが、全員にまんべんなく、しかも頻繁に話しています。
また、メンバーを食事や飲み会によく誘っています。顔ぶれや回数には偏りがなく、変な強制もしていません。こういう場でも、「役に立たないから、せめてこのくらいは」などといって、いろいろメンバーの話を聞きます。メンバーの困っていることが見つかれば、会社に掛け合ったりもしています。
このリーダーは、確かに実務知識は足りないかもしれませんが、メンバーたちのまとめ役であり、モチベーターという役割も担っており、周りもその行動を認めていました。メンバーたちに聞くと、「リーダーは頼りないから」「自分たちが頑張らなければ」などと、笑いながら話してくれます。
いうなれば、これもリーダーとしての大切な人望です。「この人のために」とメンバーに思われる人間には、やはりリーダーとしての資質があるといえます。実務はいまひとつでも、メンバーと一つになってチームを形成するためのコミュニケーション力が卓越しているのです。