「部署でいちばん業績を上げる、エースで4番みたいなやつを管理職にしよう。そうすれば同じように優秀な部下を多く育ててくれるはずだ」。
現場のエース的な社員を、部下の育成を担う管理職にする。経営者がやりがちなエースの登用は、いいのか、悪いのか。今回は、このテーマについて考えてみましょう。
まず1つ押さえておきたいのは、「名選手、名監督にあらず」ということ。昔からよく言われていることですが、優秀なプレイヤーが必ずしも優秀なマネージャーになるとは限りません。現場のエースは当然「仕事ができる人」ですから、「できない人」の気持ちがわかりません。成果が上がらない人に対して「なんでできないの?」という発想になりやすく、部下の育成には向いていない場合が少なくありません。
管理職とは何かというと、「人を育てる責任者」。担当部署の「チームで業績を上げる」という責任を担うのと同時に「人を育てる」という責任も担うことになります。エースで4番は、自分の業績を上げることによってチームの業績を上げることには貢献できるかもしれませんが、人を育てることは不得意かもしれません。
現場のエースを管理職に引き上げるのは至極真っ当な発想ではありますが、「人を育てる責任者」ができるのかどうかは、よく見極めたほうがいいでしょう。
ただし、「人を育てる責任者」ができるようであれば、現場のエースを管理職に引き上げたほうがいいかというと、また別の問題があります。
中小企業やベンチャーでは、管理職に人材管理だけに専念させている人的余裕がないため、管理職や経営者が自ら現場に出てプレイングマネージャーを務めることが当たり前になっています。しかし、これは簡単なことではありません。
プレイヤーとして目標数字に向かって邁進していたら、部下の指導・育成に時間を割いている余裕はないでしょう。逆に、マネージャーとして部下の指導・育成に注力していたら、プレイヤーとして現場に出る時間は確実になくなります。
結局どちらも中途半端になって、プレイヤーとしては売上が落ち、チームや部門全体の業績も下がってしまう。マネージャーとしても人を育てられず、多くの離職者を出してしまう。特にエースで4番のような稼ぎ頭を管理職にしてしまうと、「個人の売上の低下」が「会社全体の業績低下」に繋がるリスクがあります。
プロ野球の長い歴史においても、プレイングマネージャーとして成功したのは、故・野村克也氏だけではないでしょうか。現場でプレイヤーとして高い成果を出しながらマネージャーとしても部下の指導や育成を両立できる人は、そうそういないのです。
そのため最近は、管理職コースと専門職コースを分ける企業が増えてきました。うまくいっている会社もそうでない会社もありますが、エースで4番を無理に管理職に引き上げず、スペシャリストとして管理職と同等のポストを与えるのも1つの方法です。
私が在籍していた頃のリクルートには、アカウントマネージャーとマネジメントマネージャーという2つの役職がありました。アカウントマネージャーは、稼ぐことに特化し部下は持たないが、マネージャーという格は与える。マネジメントマネージャーは、人材育成や部署の業績管理に専念し、数字は持たない。こうした2つのポストを用意して、プレイヤーとマネジメント、2つの役割を明確に分けていました。
これは20年以上前の話なので今はどうかわかりませんが、リクルートは当時から「そもそもプレイングマネージャーって無理なんじゃないの?」「どちらかに専念させたほうが人も組織も成長するのでは?」と考えていたのだと思います。
優秀な人材を管理職に引き上げるのは、必ずしも最善策とはいえません。エースで4番に高い業績を上げ続けてもらうためには、管理職と同じような権威づけができる役職や呼称を与える方法もあります。現場のエースがプレイヤーとして活躍を続けていくことができるキャリアプランも検討してみたほうがいいのではないでしょうか。